術中の脂肪組織って邪魔ですよね。”脂肪には百害あって一利なし”なんて思いませんか。視野の邪魔になるし、出血するし・・・
今回は、その視点をガラっと変える話をします。最後まで読むころにはきっと
”脂肪、ありがとう”
となっています。
ぜひ楽しんでいってください。
目次
脂肪のメリット
実はあの邪魔な脂肪、見方によってはかなり”強大な仲間”になります。
強敵とかいて、”とも”と呼ぶ的な感じです。
特に、前方アプローチでは腹膜下筋膜に沿って剥離していくときにめちゃめちゃ役に立ちます。
早速結論から言います。脂肪のメリットとは
脂肪に切り込まないこと、そして脂肪の下に入ることで腹膜下筋膜の展開が出来る。
これに尽きます。具体的にわかりやすく説明していきます。
脂肪の役割
脂肪は本来どのような役割がありますか?
そんなの簡単ですよね。
”エネルギーを蓄え、与える。”
これは医学を学んでいなくてもわかりますよね。
では視点を変えて考えるとこうとも言えます。
”それぞれの脂肪にはエネルギーを与える対象が存在する”
実は、それぞれの脂肪には所属場所が決まっており、脂肪は基本的に何かの付属物です。
ということは、脂肪を見ることで、おなかの中でどこらへんを触っているのかがわかってくるのです。これはめちゃめちゃ大事なことです。
地図で言うと、ローソンがある交差点を右に曲がるときの”ローソン”ぐらい大事な指標になります。
血管などの脈管の周りに脂肪がいており、脂肪を意識することで触っている場所がわかるわけです。これはより繊細な視野を確保できる内視鏡による大きなメリットです。使わない理由はないですよね。
脂肪の使い方 腹膜磨き
脂肪が何かの所有物ということは理解できましたね。
では広間膜後葉の近くにある脂肪はどの組織の所有物でしょうか?
広間膜腔で見えてくる脈管を考えると答えが出てきます。
一つ一つ展開図と共に確認していきましょう。
まずは円靭帯を切断した後のこの脂肪はどの組織の脂肪ですか?
これは骨盤漏斗靭帯近くにある脂肪なので、骨盤漏斗靭帯の脂肪となります。
剥離するときは脂肪が本来ついている組織につけるように剥離して行ってください。
骨盤漏斗靭帯につけるために、この場合は脂肪の上を通るように剥離していってください。
広間膜後葉についている骨盤漏斗靭帯を通るときは脂肪が骨盤漏斗靭帯に付くように脂肪の上を通るように剥離を進めていけばいいわけですね。
では次に行きましょう。
この後に出てくる脂肪に関してはすべて同じです。
脂肪を骨盤側(つまり外側)にいくように腹膜に沿って剥離して行ってください。
なぜなら、この後の脂肪は、基靭帯や外腸骨、内腸骨、尿管系の脈管につく脂肪だからです。
展開していくとこのようになります
肉の余分な脂肪を落とすことを肉磨きと言いますが、肉磨きならぬ腹膜磨きです。腹膜から余分な脂肪をそぎ落とすように展開をしていってください。
広間膜腔の展開”腹膜磨き”の注意点
脂肪は脈管の所有物であり、その持ち主につけるように剥離していく。
このポイントを意識すれば作りたかった腔が出てきますが、いくつか注意点があります。
・行き過ぎ注意
腹膜に沿って脂肪を全て前葉側骨盤側にあげていくと、基靭帯の下に潜っていくことになります。
そうするとかなり深いところに行って、直腸側腔まで到達してしまいます。
TLHであれば直腸側腔を展開する必要はないので必要ない展開となり、誤認し、他臓器損傷や骨盤深くでの血管損傷といった合併症のリスクだけが高まってしまいます。
尿管の深さまで行ければそこで終了です。
腹膜に穴をあけない
腹膜に穴をつけてしまうとテンションがかけにくくなります。
なるべく腹膜に沿って行くことが大切ですが、腹膜に穴が開かないように気をつけましょう。内膜症や癒着症例ではどうしても腹膜に穴が開いてしまうことがあります。その時のリカバリーに関しては後日お伝えします。
脂肪を広間膜後葉につけるとどうなる?
どうしても癒着が強くて、思うように剥離が出来ず、とりあえず開きやすいところを剥離してくことがありますよね?
前方アプローチでこれをやっていくと、脂肪を下につけた状態となり靭帯の逆に膀胱側腔に入ることがあります。
つまり基靭帯の上に入ってしまうと言うことです。
こうなるとなかなか子宮の血管と、基靭帯が同定できず、尿管もはるか深い脂肪の中に埋もれることになります。
最悪、上膀胱動脈を子宮動脈と誤認して凝固や結紮してしまうことがあり、かなり侵襲の大きなリスクの高い手術となってしまいます。
なるべく脂肪は後葉から離れるように後葉を磨いて行ってください。
今日からできること
脂肪がどの脈管の所有物なのかを意識する。
まとめ問題
次のうち、広間膜腔の展開において脂肪の扱いについて正しい記述はどれでしょうか?
- A. 脂肪は常に邪魔であり、すべて除去すべきである。
- B. 脂肪は脈管の所有物であり、その持ち主につけるように剥離していくことが重要である。
- C. 脂肪を広間膜後葉につけることで、手術が容易になる。
- D. 脂肪は全く意味がなく、その存在によって手術のリスクは増加する。
正解:B 解説: 脂肪は脈管の所有物であり、その持ち主につけるように剥離していくことが重要です。脂肪を適切に扱うことで、手術中に触っている場所がわかり、より繊細な視野を確保できます。選択肢A、C、およびDは、脂肪の扱いに関する誤った考え方を示しています。適切に脂肪を扱うことで、手術のリスクを減らし、効果的な展開を行うことができます。
次回からはいよいよ前方アプローチでの尿管に移っていきます!