前方アプローチの尿管同定④ 尿管って子宮動脈と交差する?

4 min

前方アプローチあるある

子宮動脈は見つかったが尿管がどこにあるかわからない

この問題を丸っと解決。ある点を知っているだけで大概解決します。

今回は子宮動脈と尿管との位置関係がわからなかったときの対策について解説していきますね。

今回のことを知っているか知らないかで手術の安全性が全く違いますよ。

立体的な構造の理解の難しさ

そもそも立体的な構造ってかなり把握が難しいです。見る場所によって全く見え方が違ってくるからです。

例えば”円柱”は上から見ると〇ですが、横から見ると🔲になりますよね。

何事もそうですが、視点が変われば見え方が変わる。見え方が変われば認識が変わるわけですね。

尿管と子宮動脈の交差部においても同様のことが言えます。

特に腹腔鏡は二次元の画面で見ているため見ている視野によって見え方が全然違ってきます。

子宮動脈の下に尿管があり直角に交わるはずなのに、なぜかうまいこと行かない?

それは開けた腔によって見え方が変わるからです。

見え方が変わっているという認識をまず行い、その見え方を理解できればスッキリ解決できますよ。

子宮動脈って尿管と直角に交わる?

尿管を見つけるときに”子宮動脈の下に存在し直角に交わる”と考える大体うまくいきます。

その一方で、子宮動脈の下で直角に交わると考えて失敗するときもあります。特に困難症例でよく起こります。これについて説明していきます。

この2つの場合を尿管を見失いがちなパターンを題材に、考えていきましょう。

子宮動脈の下に尿管が直角に交わると考えうまくいったパターン

まずは尿管を見失いがちな場面から、子宮動脈の下に尿管があると考えうまくいったパターンを見ていきましょう。

尿管を見失いがちな状況は、やや癒着が強く子宮動脈を頸管から外側に追っていったときにおこりやすいです。(子宮動脈アプローチ型

気が付くポイントとしては、後葉側に組織が残っているときや、前葉側がきれいに剝けているときは要注意です。”膀胱側に入っている”と言われます。

前葉側を開けてしまい、いわゆる”膀胱側腔の入り口”を開けているような状態になるわけですね。

以下の画像ではある程度、頚部側から子宮動脈を単離していった像になります。

これぐらい子宮動脈の走行がわかりやすい時は、子宮動脈のどこかの下を直角に通ると考えて、尿管の位置を推定します。この時も脂肪を意識するとわかりやすいです(詳しくは脂肪は敵?それとも

この時は子宮動脈をかなり剥離できているので、構造把握が楽に行えています。管状に見える脂肪がありましたので、ここに尿管が存在すると推測し、中を探ります。

そうするとこのように尿管が見えてきました。

今回は子宮動脈がきれいに剥けていたので子宮動脈の下にあると認識してうまく尿管を見つけることが出来ました。ではここから思考実験に行きましょう。

尿管が子宮動脈の下を直角に交わると考えてうまくいかないパターン

思考実験として以下の状況を考えてみましょう。画像の赤丸の部分が先に剥離できて、尿管の上に脂肪がまだかかっている状態を考えてみましょう。

この時に”尿管は子宮動脈に直角に走行している”と考えるとどのようになりますか?

このように考えてしまいませんか?

そうすると脂肪に包まれた尿管の走行が見えなくなってきます。なぜならそんな走行をする管及び脂肪は存在しないからです。

後から見ると

あたりまえやん!!

となりますが、術中は案外この”尿管は子宮動脈の下を直角に交わる”という罠にはまってしまうため要注意です。

人間には見えるように物事を見てしまうというバイアスがあります。

錯視などは良い例ですね。3つ点があるだけで人の顔に見えたり、ないはずの図形が見えたり・・・

ではどのような認識をしていればこの罠から逃れられるのでしょうか。

交差部から見る尿管と子宮動脈

結論から言うと、子宮動脈と尿管の走行をイメージするときなのは1点。

交差部から離れているかどうか。

これに尽きます。交差部の近くの位置なのか、交差部の遠くの位置なのかで子宮動脈と尿管の走行関係は大きく変化します。結論から言うと、

  • 交差部遠くでは平行に走る
  • 交差部近くではTの字に交差する。

これだけです。詳しく見てみましょう。

交差部の遠くでの走行

交差部の外側、つまり交差前の子宮動脈は尿管と平行に走ります。

交差前は緩やかなカーブを描きながら子宮に向かっていくので、カーブを曲がりきる前は尿管を並行に走ります。

子宮動脈は内腸骨動脈から分岐しますが、内腸骨動脈も尿管と背側で平行に走行します。

交差部の近くでの走行

交差部の近くでは 尿管と子宮動脈は直角目に走行します。

交叉するというイメージが強いとこちらの走行パターンのみを考えがちです。たちが悪いのは、容易な症例ではこのパターンがうまくいくことが多いため、困難症例の時に罠にはまることが多いわけですね。

模式図でイメージを定着させよう

最後に模式図でこのイメージを定着させてみましょう。子宮動脈と尿管の模式図は以下のようになります。子宮動脈は内腸骨動脈から分岐後緩やかなカーブをもって子宮に向かいます。尿管はその下をやや急なカーブを描きながら通り、子宮上の膀胱に向かいます。

1.2.3の点で考えてみましょう。

  1. は内腸骨動脈からの分枝直後の交差部から離れたところ。縦に平行
  2. は交差部で直角に交わる
  3. はいわゆる尿管トンネルの場所でやや横向きに平行

このようになっています。

なので、子宮動脈を見つけたときは、図の①にいるのか、②にいるのか、③にいるのか、いったん遠景にして、全体像を把握してみましょう。

今日からできること

交差部の位置を予想して尿管や子宮動脈の同定を行う

まとめ と練習問題

腹腔鏡手術における子宮動脈と尿管の位置関係について、子宮動脈が尿管と直角に交わると考えていると誤認することがあるが、実際には交差部の近くで直角に交わり、遠くでは平行に走行することが多い。このような立体的な構造を把握するのは難しいが、交差部から離れているかどうかを意識することで対処できる。

問題1: 子宮動脈と尿管の走行関係は、どの部分で大きく変化しますか?

  • a) 交差部の近く
  • b) 交差部の遠く
  • c) 子宮動脈の分岐部
  • d) 内腸骨動脈の分岐部

答え: a) 交差部の近く

解説: 子宮動脈と尿管の走行関係は、交差部の近くで大きく変化します。交差部の遠くでは、子宮動脈と尿管は平行に走りますが、交差部の近くでは、子宮動脈と尿管は直角目に走行します。この違いを理解することが、手術の安全性に大きく影響します。

問題2: 交差部の遠くでの子宮動脈と尿管の走行パターンはどのようになっていますか?

  • a) 直角に交差して走る
  • b) 平行に走る
  • c) 子宮動脈が尿管の上を通る
  • d) 尿管が子宮動脈の上を通る

答え: b) 平行に走る

解説: 交差部の遠くでは、子宮動脈と尿管は平行に走ります。子宮動脈は内腸骨動脈から分岐し、尿管と背側で平行に走行します。このことを把握することが、尿管の位置を正確に推定するために重要です。

次回からは膀胱剥離になります。お楽しみに。

ごっそ

ごっそ

百名以上からベスト指導医に選出された8年目若手産婦人科医。研修医時代から腹腔鏡練習や動画メインでの復習を欠かさず、たくさんの失敗を乗り越え現在ダグラス窩閉鎖症例やキロ越えのTLH(RASH)を執刀中。日本産科婦人科学会の若手医員選出。教育を充実させる目的で情報発信を開始しています。

FOLLOW

カテゴリー:
関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です