前方アプローチはどんなに大きな筋腫でも、どんな激しい癒着でも安全に対応できるアプローチ方法です。
しかし、前方アプローチは”難しい””わかりにくい”と一般的に言われます。
その最も大きな原因の一つとして挙げられるのが、”尿管同定の難しさ”です。
今回はなぜ尿管を見つけにくいのか、そして、見つけにくいはずなのになぜ安全なのか
これらについてわかりやすく説明していきます。
目次
そもそもアプローチって何に対するアプローチ?
そもそも前方、側方、後方アプローチとありますが、何に対するアプローチなのでしょう?
正解は、”尿管及び子宮動脈本管に対するアプローチ”になります。
わざわざ手技の流れに”アプローチ”と名前を付けるぐらいですから、これら、尿管及び子宮動脈本管を同定することはとても大切な作業といえます。
それもそのはず、尿管を同定し剥離することで尿管損傷のリスクがかなり軽減し、子宮動脈本管を同定し止めることで子宮本体からの出血がかなり減るからです。
そのため安全に手術を行うために、尿管と子宮動脈本管を同定するようになり、おそらくアプローチというカテゴライズが行われているのです。(腹膜をあけての同定が必要かどうかの議論は今回は割愛します)
尿管と動脈を同定して、子宮動脈を結紮している場面
前方アプローチだけの特徴
では前方アプローチと尿管との関係を深く理解するための以下の三つの質問に答えてください。
①尿管ってどこについていますか?
広間膜後葉です。
②子宮体部の近くを走っていますか?
いえ、どちらかと言うと子宮体部より骨盤側を走っています。
つまり尿管は、広間膜の後葉の子宮体部からはなれた位置をそうこうしているというわけですね。最後の質問です。
③前方アプローチの切開ラインはどこですか?
広間膜前葉の子宮体部よりです。
これまでこのブログを熱心に読んでくださっている勘のいい読者であれば、これで前方アプローチの大きな特徴が分かりますよね。
そうなんです。
”前方アプローチの切開位置は尿管と真反対の位置”なんです
子宮より離れ、後葉にある尿管は、子宮近くの前葉切開から始める遠くからのアプローチであれば、そりゃ尿管に当たるのは遅れる。当たり前ですね。
他のアプローチはどうなっているのでしょうか。このブログで提言している広間膜箱(広間膜腔を箱に見立てたもの)で考えてみましょう。(左広間膜腔)
前方アプローチ
右上の辺が切開ラインで左下の辺が尿管になり、位置関係的には真反対
側方アプローチ
尿管のすぐ真上の外腸骨のすぐ横の広間膜前葉を切って尿管を同定します。
そのため切開ラインと尿管の距離が近いです。
後方アプローチ
腹膜越しに尿管を視認したのち、尿管のすぐ横の腹膜(広間膜後葉)を切開して尿管を同定します。後方アプローチが最も尿管と近い部位を切開しているので尿管の剥離が最も早くなります。
各アプローチと尿管の走行
このように、側方後方アプローチはそれぞれ尿管近くの広間膜前葉及び後葉を切開しているのに対して、前方アプローチでは切開ラインが尿管から離れています。そのため、尿管を見つけるタイミングが他のアプローチよりも遅くなり、難しく感じるわけです。
前方アプローチがより安全な理由
では前方アプローチが難しいと感じる理由が距離が離れていることがわかったところで、最後に前方アプローチが安全な理由を述べていきます。
突然ですが皆さん、地雷処理を行ったことはありますか?
え?私?私は・・・
もちろんありません。
皆さんもおそらくないと思いますので、一緒に想像してみてください。
追手に追われており、地雷が落ちている地域を地雷処理した後に急いで進まないといけないという状況があるとします。
どんな状況だよ!という突込みは置いといて、次の条件の場合進み方はどのようになりますか?
- 地雷が見えている場合
- 地雷が見えていない場合
地雷が見えている場合は、安全な距離をある程度取りながらも近くを通り地雷処理していくが可能ですよね。確認しながら近くを通ればいいのです。
地雷が見えていない場合はどうでしょう。なるべくなさそうなところを探りながら、周りの状況を把握しながら少しでも手がかりをつかみながら進むのではないでしょうか。
前方アプローチが巨大子宮やダグラス窩閉鎖症例でも安全に手術ができる理由がここにあります。
そうです。この地雷がTLHにおける尿管となります。
地雷を尿管として考えてみると、こう言い変えることが出来ます。
尿管が見えている場合は、尿管近くの腹膜を切開する後方アプローチや側方アプローチでも近くを通りながら処理していくことが可能です。
尿管が見えていない場合は、尿管からなるべく離れた、構造のわかりやすい円靭帯と前葉を切開する前方アプローチであれば尿管を傷つけることなく周りを処理した後に尿管を処理できる。
正直、ダグラス窩の癒着がなく、子宮を前屈させることで尿管がわかるような比較的簡単な症例では後方アプローチや側方アプローチのほうがわかりやすいと思います。
しかし、すでに説明した通り、尿管や子宮動脈の走行がわからないほど大きな子宮やダグラス窩閉鎖症例の困難症例では、危なくないところから手をつけることのできる前方アプローチが最も安全に手術を行うことが出来ます。
そのため常日頃から比較的容易な症例でも、困難症例を意識して前方アプローチで丁寧に広間膜前葉腔を展開し、尿管を同定する作業と経験をつむことで、ステップバイステップで困難症例に臨むことが可能になるのです。
どれだけ強力な武器でも、使い慣れていない武器ほど使えないものはないですよね。
今日からできること
選択したアプローチによる尿管の見つけやすさを意識する
まとめ問題
前方アプローチが困難な症例でも安全に手術を行うことができる理由はどれでしょう?
- A. 尿管が見えている場合、尿管近くの腹膜を切開する後方アプローチや側方アプローチでも近くを通りながら処理していくことが可能である。
- B. 前方アプローチでは尿管から離れた位置で切開を行い、構造のわかりやすい円靭帯と前葉を切開することで、尿管を傷つけることなく周りを処理した後に尿管を処理できる。
- C. 前方アプローチでは尿管の位置を正確に把握できるため、尿管損傷のリスクが低い。
- D. 前方アプローチでは子宮動脈本管を早期に同定し止めることができるため、子宮本体からの出血がかなり減る。
正解: B
解説: 前方アプローチが困難な症例でも安全に手術を行うことができる理由は、尿管から離れた位置で切開を行い、構造のわかりやすい円靭帯と前葉を切開することで、尿管を傷つけることなく周りを処理した後に尿管を処理できるからです。選択肢Aは後方アプローチや側方アプローチの説明であり、選択肢Cは前方アプローチの特徴ではありますが、安全性の理由としては不十分です。選択肢Dは前方アプローチの利点の一つですが、安全性に直接関係するわけではありません。
次回はいよいよ、尿管の同定の具体的な方法になります。お楽しみに。