附属器② 卵巣温存時の附属器の処理の手順と展開の唯一のコツ

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卵巣温存は患者さんにとってかなり大きな選択になります。

自分の臓器がなくなるかどうか、ホルモンのバランスが変わるかどうかのかなり大きな選択なってくるでしょう。

もちろん残すことで腫瘍が発生するリスクはあります。そのリスクを負ってでも卵巣を残したいという患者さんの思いを丁寧に形にしていく必要があります。

附属器の処理は”簡単”と思われがちですが、間違えて、骨盤漏斗靭帯を傷つけてしまえば、卵巣機能は低下してしまうでしょう。特に癒着症例ではそのリスクが高まります。

そのため、ただまとめて卵管を切る、卵管を切離するではなく、間膜の膜を切開し、血管構造をあらわにしてから処理するのが望ましいと考えます。

どうすればきれいに処理することが出来るのでしょう。

では早速結論から。

卵巣を保持しながら附属器(円靭帯、卵管、卵巣)の間膜を処理する際の基本的なコツは、

「切りたい部分とその腹側の組織を同時に持つ」

これについて詳しく説明していきます。

ちなみに前回は附属器の解剖のメタファーを提示しました。基本的には3ページの冊子として考えるとよいという話でした。このイメージがあると理解が進みます。こちら

卵巣温存時の附属器の処理、共通するコツ

附属器(円靭帯、卵管、卵巣)の処理にあたって共通するコツがあります。それは、

“間膜を切開する時は、対象部位とその腹側の組織を持つ”

になります

具体的には、

卵管間膜を処理するときは、卵管を把持したのち、一つ奥の円靭帯を持ちあげ、展開します。

卵巣と子宮の間の卵巣固有策を処理するときは、卵巣を把持し、卵管の断端を持ち展開します。

わかりにくいですよね。ここで冊子のメタファーが生きてきます。

一般的に、

冊子のあるページにハサミを入れるときに、上のページが閉じていると重なって切りにくいですよね。

それと同じく

卵管(2ページ目)を切りたいのに円靭帯(1ページ目)の組織が下りてきていると切りにくいのです。

言われてみれば当然ですが、手術になると見えなくなるのは不思議ですよね。わかればかなり理解しやすいと思います。では手順についてみていきましょう。

ちなみに、卵管間膜(2ページ目)を処理するときに卵巣(3ページ目)は持たなくていいのかと疑問に思われるかもしれませんが、基本的には重力で展開されているので持たなくていいです。ただし、卵管が卵巣に癒着している症例では先に、この間の癒着を剥離しておく必要があります。

Step1.円靭帯の処理(1ページ目)

前方アプローチの場合は初めに円靭帯の処理を行っていますので割愛(詳しくはこちら参照)

Step2.卵管と卵管間膜の処理(2ページ目)

まず、卵管にテンションをかけて切断します。切開位置は円靭帯の切開の長さと同じ位置がその後の処理がしやすくてよいです。

次に卵管間膜の切開になります。

卵管(2ページ目)を把持して外側に展開し、そして円靭帯(1ページ目)を持ち上げ腹側に展開します。

この時に円靭帯を持ち上げていないと以下のようにわかりにくい展開になります。

円靭帯を持ち上げることの大切さがわかりますね。

次に卵管間膜の後葉側の切開の展開になります。卵巣(3ページ目)は重力で下に落ちるので癒着していない限り展開は必要ありません。

最後に、もう一度展開を戻して、卵管間膜に入っている血管を凝固切開すれば卵管の処理は終了です。

これくらい丁寧に処理が出来ると困難症例でも出血のリスクを軽減することが出来ます。

Step3.卵巣の処理(3ページ目)

基本的にはStep2の繰り返しになります。卵巣(3ページ目)を把持して外側に展開して、そして卵管(2ページ目)を持ち上げて腹側に展開します。

そして、凝固して切開。

その後の組織の処理も、同様に卵巣(3ページ目)を外側にテンションかけ、卵管(2ページ目)を腹側に持ち上げることで周りの処理が丁寧に行え、安全に血管の処理が出来ます。

ちなみに卵巣の背側の広間膜後葉を先に切開しておくと血管をつかみやすいです。ここは発生学的に血管が奥目に存在しているので、先に切開しても出血しませんので怖いかもしれませんが安心して切開してください。

Step4.骨盤漏斗靭帯~子宮動静脈の吻合部の処理

最後に、残った骨盤漏斗靭帯~子宮動静脈の吻合部を凝固切開して終了となります。この時もなるべく切りやすいように邪魔な組織をどかすような展開を行います。具体的には、1ページ目の円靭帯を腹側に、2.3ページ目の卵管と卵巣を外側にテンションをかけます。

かなり太い血管になるため、血管に対して直角に凝固止血できるように附属器を展開してください。

ここで奥の状態を確認することも大切です。

上行枝を傷つけないぎりぎりで、しっかりと切りきるために必要な操作になります。

これで卵巣温存の手順は終了です。結構ボリューミーでしたが、これぐらい丁寧に処理することで安全な手術を行うことが可能になります。少しめんどくさいですが、技術向上のため、患者さんの機能温存のためにコツコツやっていきましょう。

まとめ問題と解説

問題: 附属器の処理手順に関する以下の選択肢から、正しいものを選んでください

A. 卵管を処理する場合、卵管を把持し、円靭帯を持ちながら処理する。
B. 卵管を処理する場合、卵巣を把持し、展開してから処理する。
C. 卵巣を処理する場合、卵管を把持し、展開してから処理する。
D. 卵巣を処理する場合、卵巣を把持し、展開してから処理する。

解説:

正解は、A. 卵管を処理する場合、卵管を把持し、円靭帯を持ちながら処理する です。
附属器の処理において、共通するコツは「切りたいものとその腹側の組織を持つ」ということです。具体的には、卵管を処理する際には卵管を把持し、一つ奥の円靭帯を持ちながら処理します。一方、卵巣を処理する際には卵巣を把持し、展開してから処理します。

次回は広間膜後葉の処理になります。お楽しみに。

ごっそ

ごっそ

百名以上からベスト指導医に選出された8年目若手産婦人科医。研修医時代から腹腔鏡練習や動画メインでの復習を欠かさず、たくさんの失敗を乗り越え現在ダグラス窩閉鎖症例やキロ越えのTLH(RASH)を執刀中。日本産科婦人科学会の若手医員選出。教育を充実させる目的で情報発信を開始しています。

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