子宮傍組織② もう出血しない、子宮傍組織入門。「結局どの”高さ”で切ればいいの?」

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子宮動静脈をどの高さで切る?

子宮動脈上行枝の処理を行うときに聞かれ、誰しもを返答に困ったことがあるはずです。

この記事を見れば明確な返答を行うことが出来るようになります。具体的にどこで子宮動静脈の上行枝を処理すればいいのか説明していきたいと思います。

知っているだけで、危ない状況から逃げれる場面が増えてきます。全産婦人科医が知っておくべき内容となっていますのでお見逃しなく!

子宮動静脈切開の危険性

手術中にピリつく瞬間はいつですか?というアンケートがあった時皆さんなら何と答えますか?

私は、”子宮動静脈の処理の時”と答えます。

なぜならここの処理を失敗すると大量出血につながり、一気に視野がなくなり、そして他臓器損傷という意思にとっても患者さんにとっても最悪の状況につながります。

皆さんも経験ありますよね。

子宮近くで出血、止めるには外を触るしかない、でも尿管見えてない・・・どうしよう・・・

よくある話で、出血で焦る状態で対処しないといけないのでかなり焦ります。

初歩の解剖知識となりますが、子宮は左右2束に血管が収束しています。子宮本体から木の根のように広がっていきますよね。

出血をすると、より外側で処理をしないといけない(上流は外側の内腸骨系)ため。

骨盤より、つまり危ない組織が広がっている場所を触る必要があり危険です。

子宮動静脈での出血は絶対に避けるべきイベントになります。

結局どの”高さ”で切ればいいの?

では本題の単純子宮全摘で”子宮動静脈上行枝は結局どこで切ればいいの?”に移っていきます。

子宮頸部のどこで切るかという話になります。

大きく2パターンに分かれます。

高め:子宮体部より(内子宮口当たり)
低め:膣より(外子宮口あたり)

つまり、①高めの体部に寄ったところでの切開と、②低めの膣に寄ったところでの切開になりますね。

それぞれの処理位置とその後の展開について具体的にみていきましょう。

子宮体部より(内子宮口当たり)での処理

いわゆる”高い位置での処理”、”筋膜内での処理”、”アルドリッチ”などと言われる処理になります。

具体的な場所としては、子宮体部が広がってくるこの部分になります。

かなり体部よりですよね。頸管に子宮動静脈上行枝をつけながらの処理になります。

この”高い”ラインでの処理の最大のメリットは出血時のリカバリーがしやすいことになります。
なぜなら、骨盤からより離れる、つまり尿管や膀胱、大腸から離れることが出来るため他臓器損傷のリスクが低いため安心して凝固止血できるわけです。
そのため、仮にに子宮から離れた部分の剥離が甘くても処理が出来ます。

具体的な手順を見ていきましょう。

①まず子宮をしっかりと頭側に牽引します。子宮体部と頸部の間を確認します。

②内子宮口付近でバイポーラで凝固止血します。左右十分凝固止血したのち、子宮側で切開します。

血管は分けて一本一本処理していってください。欲張ると出血します。

「欲張って切開しない」これを意識して処理していきます。

③そして徐々に腟側に降りていきます。この時も凝固止血しながら進めるようにしてください。

コツとしては

まず、子宮頸管に沿って切開していくこと
つぎに、子宮動静脈を切った後は上下の組織を別々に処理していくこと
になります。

降りていくにつれて骨盤底に近づくため、組織は広がっていきます。
そのため、子宮動静脈を切った後は上下の組織を別々に処理していく必要があります。

これを繰り返すことで子宮頸管から安全に血管を離すことが出来ました。

デメリットとしては、

①処理の工数が多いこと
②子宮を一部削ってしまう可能性があること

が挙げられます。

膣切開より(外子宮口当たり)での処理

次はより膣切開部位に近いところでの処理について説明していきます。

いわゆる”低い位置”とか”外側”とか”筋膜内”と言われるような位置です。具体的な位置は子宮円蓋部あたりになります。

これの大きなメリットは、腟の切開ラインに近いので処理する組織が少ないこと、膣切開の時に組織が薄くなること、子宮を削ってしまうリスクがひくことになります。

具体的な手順を見ていきましょう。

①まず膣と子宮の境目を確認します。そして、十分に尿管および膀胱、大腸が剥離できていることを確認します。

②そして、膣切開ラインよりやや体部より(高め)から凝固止血します。

③そして切開を行い、これを数回繰り返して処理は終了となります。

先ほどと比べて外側のみに切開創が広がっているのがわかるでしょうか。デメリットとしては

①子宮から離れた組織を触る必要がある。特に尿管をしっかりと剥離する必要がある。
②出血させたときのリカバリー時のリスクが高い

が挙げられます。

結局どちらがおすすめなの?

ラインがわかったところで、高めと低めどのように使い分けたらいいのかという疑問がありますよね。場合に寄るのですが、はっきりと言えることは。これですね。

高めが無難

これには明確な理由があります。①の高めの切開が安全だからです。

ここで1つ問題です。

子宮周囲に関して、動静脈の中枢側ってどちらになりますか?

中枢と聞くと子宮側!と答えたくなりますが、内腸骨が外側にあるので骨盤底側になります。

そのため、より子宮に近い側が末梢側となるため、より末梢側の①の体部よりの切開のほうが安全と言えます。

では外側の処理の存在価値は何でしょう。それは組織をかじるリスクが低いことになります。

なので、解像度を高く答えると、

①他臓器損傷がおこりえる場合は、逃げるために高めで処理
②CIN3などで子宮の組織をかじりたくない時は、剥離をしっかりと行い低めで処理

という形になります。

基本はやはり、高め。出血させたときにリカバリーがしやすいので”高め”から始めるほうが良いと思います。

以上になります。次回は膣切開になります。長々とやってきましたが、いよいよ子宮が取れます。お楽しみに。

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まとめ問題

問題:

子宮動静脈上行枝の処理に関する次の記述のうち、正しいものを選択してください。

  1. 子宮動静脈上行枝の切開は、外子宮口付近で行うのが最も安全である。
  2. 子宮動静脈上行枝の切開は、内子宮口付近で行うのが出血時のリカバリーがしやすく、他臓器損傷のリスクが低い。
  3. 子宮周囲に関して、動静脈の中枢側は子宮側である。
  4. 高めの切開位置は子宮の組織を削ってしまうリスクが低い。
  5. 膣切開に近い位置での動静脈上行枝の処理は、他臓器損傷のリスクが低い。

正解:

  1. 子宮動静脈上行枝の切開は、内子宮口付近で行うのが出血時のリカバリーがしやすく、他臓器損傷のリスクが低い。

解説:

内子宮口付近での切開は、骨盤から離れることができるため、尿管や膀胱、大腸から離れることができるため、他臓器損傷のリスクが低くなります。また、出血時のリカバリーがしやすいというメリットがあります。逆に、膣切開に近い位置での切開は、子宮から離れた組織を触る必要があり、特に尿管のリスクが高まります。

ごっそ

ごっそ

百名以上からベスト指導医に選出された8年目若手産婦人科医。研修医時代から腹腔鏡練習や動画メインでの復習を欠かさず、たくさんの失敗を乗り越え現在ダグラス窩閉鎖症例やキロ越えのTLH(RASH)を執刀中。日本産科婦人科学会の若手医員選出。教育を充実させる目的で情報発信を開始しています。

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