今回からは膀胱編になります。
実は前方アプローチをきれいにできるからこそ安全にできる膀胱剥離があります。
それはサイドからの膀胱剥離。
正面およびサイドからの剥離まで丸っと解説していきます。
理解が難しいとされる、膀胱周りの解剖についても徐々に説明していきます。
目次
そもそも膀胱って剥離する必要ない!?
まずはこの問いから深堀していきましょう。
膀胱剥離って必要なんですか?
もう少しちゃんとした問いにするなら、
そもそも子宮を取るだけの手術で膀胱剝離は必要ですか?
え?そりゃ必要でしょう。
って普通なりますよね。実は、私も長らく”膀胱剥離の必要性”について考えたこともありませんでした。
しかし、とある内視鏡学会でこの問いに出会ってから、再度膀胱剥離について考えさせられました。そして、深堀していくことで、膀胱の解剖を含めての理解がかなり深まりました。
皆様の膀胱剥離の技術向上にかなり役立ちますので、一緒にこの問いについて考えていきましょう。
膀胱を剥離しなくても子宮が取れるワケ
結論から言うと、膀胱を剥離しなくても子宮を取るだけであれば取れます。これは、膀胱と腟と子宮の発生がわかれば答えが出てきます。
あまり詳しすぎると逆に理解が出来ないので、あえて、ざっくりとした話にするとこうなります。
膀胱は尿生殖洞
腟は尿生殖洞+ミュラー菅
子宮はミュラー菅
そして、発生が異なるものは基本的に触ることなく分離することが可能。そのため膣のミュラー菅由来腟のラインで切れば、膀胱を触れることなく切れるというわけです。
つまり
膀胱と腟では、発生由来が異なる部分がある→膀胱がないラインがありそこであれば膣切開が出来る→子宮が取れる
本当に?ってなりますよね。実際私もなりました。実際に画像を見ていきましょう。
次の画像はカップ付きのマニュピレーターで正中に押し込んだ時の膀胱子宮窩になります。わかりやすいように腹膜を釣り上げています。
どこがカップの淵で、どこからが膀胱ラインになるでしょう。
答えとしてはこのラインとなります。
カップの上の淵のラインよりも奥に膀胱がありますよね。
つまり、赤い枠のところで切開をすれば膀胱の剥離はせずに膣切開することが可能となるわけです。
これで答えが出ました。
A:子宮を取るときに膀胱を剥離する必要はあるか。
Q:腟の最も手前のラインが膀胱よりも遠く存在するため、強いテンションをかけている場合は腟切開するために膀胱剥離は必要ない。
じゃあ膀胱剥離はいらないの??
膀胱剥離をするワケ
かといって膀胱剝離をせずに子宮全摘を行っているところを見たことはありません。
なぜ膀胱剥離をするのか、その理由はたった一つに集約されます。
腟を安全に縫うため。
これに尽きます。
この安全にというのは膀胱損傷と尿管狭窄を防ぐという意味です。
膀胱を剥離しなければ、腟の前壁側が膀胱にくっついている状態ですし、尿管周囲の組織も近い状態となっています。
膀胱を剥離すれば、膀胱の組織を巻き込んで運針する確率は下がります。また、膀胱脚(後日解説)を切開することで尿管の組織を巻き込んで運針する確率は下がります。
そのため、膀胱剥離をするということはこう言い換えることが出来ます。
- 縫い代を確保している
- 尿管を離している
今日からできること
膀胱を剥離する理由を考えながら剥離を行う
まとめと問題
膀胱剥離は子宮を取るだけであれば、必ず必要なわけではなく、腟の最も手前のラインが膀胱よりも遠く存在するため子宮を取るだけであれば膀胱剥離は不要です。しかし、実際は膣の縫合をする必要があるため、膀胱剥離は腟を安全に縫うために必要となります。
問題
以下の選択肢の中から、子宮摘出手術の際に膀胱剥離を行う理由で最も正しいのはどれでしょうか?
- A:膀胱の形状が不規則であるため
- B:膀胱損傷と尿管狭窄を防ぐため
- C:腟と膀胱の境界が明確に分かれていないため
- D:尿管に近い場所を縫うため
正解はB:膀胱損傷と尿管狭窄を防ぐためです。
子宮摘出手術の際に膀胱剥離を行う理由は、腟を安全に縫うために膀胱損傷と尿管狭窄を防ぐためです。腟壁を縫うときに、腟の前壁側が膀胱にくっついている状態であり、尿管周囲の組織も近い状態となっています。膀胱を剥離することで、膀胱の組織を巻き込んで運針する確率が下がり、尿管周囲の組織を巻き込んで運針する確率も下がります。そのため、膀胱剥離を行うことは、縫い代を確保し、尿管を離すために必要です。
Aの「膀胱の形状が不規則であるため」については、膀胱剥離の理由にはなりません。
Cの「腟と膀胱の境界が明確に分かれていないため」については、上記のように膣のミュラー菅由来のラインで切れば、膀胱を触れることなく切開できるため、膀胱剥離の必要性はなくなります。
Dの「尿管に近い場所を縫うため」については、尿管の組織を巻き込んでしまうことを防ぐために、膀胱剥離が必要であると考えることもできますが、それを主な理由としているわけではありません。したがって、Dは誤りです。