今回は発生から見る膀胱剥離のコツは大きく2選になります。
発生的な視点は知っているか知らないかで、上達度が全く違うためかなり大切な概念になります。わかりやすく解説していきますので着実に自分のものにしていきましょう。
目次
膀胱と子宮と腟の発生学的な関係
まずは膀胱、腟、子宮の発生について説明します。
執刀時において発生の理解というのは欠かせないものです。困難な症例ほど大切になってきます。
なぜなら、より安全に剥離できる層が見つけやすくなるためです。
発生が異なるものは、柔らかい組織によってつながっているため、剥がれていく層を見つけることで、カワハギの皮のようにつるつると剥けていきます。発生を知ることで安全な、剥がれやすい場所がわかってくるのです。
早速ですが、次の問題に答えてください。
Q1:膣は機能的にはどちらの臓器ですか?泌尿器系?それとも生殖系?
これは簡単すぎましたか。機能的にはもちろん生殖系ですよね。では、次の問題です。
Q2:膣は発生学的にはどちらの臓器ですか?泌尿器系?それとも生殖系?
答えは、発生学的には、腟は泌尿器系でもあり生殖系でもある。
解説に移りましょう。発生学的に考えると
- 膀胱→尿生殖洞
- 腟 →尿生殖洞、ミュラー管
- 子宮→ミュラー管
となりますよね。そのため、腟は発生学的には泌尿器系であり同時に生殖系なのです。
腟の一部は膀胱と同じ発生であり、もう一部は子宮と同じ発生。
この異なる発生の臓器が交わっている事実が膀胱剥離を難しくしている原因のすべてと言っても過言ではありません。
なぜなら、発生が違うのにも関わらず、血管や膜を共有してしまうからです。
では膜についてもう少し深堀していきましょう。
腟膀胱筋膜
腟子宮と膀胱の間には膜があり、それは腟膀胱筋膜と言います。
実は、この腟膀胱筋膜にはほかの筋膜とは少し違う意味合いがあります。
筋膜はどのような意味がありますか?
”包む膜”という意味がありますね(詳しくはこちら)
では腟膀胱筋膜は何を包んでいますか?腟と膀胱を包む膜ですか?
じつは腟膀胱筋膜は包むという意味ではなく、”癒合筋膜”の意味があります。膜は近くなると癒合する性質があり、筋膜同士が癒合したものを”癒合筋膜”と言います。
他に例を挙げると、尿管と基靭帯が交わる部分も膜同士が癒合しています。
つまり、筋膜の概念から話をしていくと、膀胱と腟子宮はそれぞれの管構造に包む膜である筋膜が存在していて、骨盤底に行くにつれて癒合して腟膀胱筋膜に変わっていきます。
発生から見る剥離のコツ
これまで二つのことを説明しました。
- 腟は発生で膀胱と子宮の両方と発生が一緒
- 膀胱と腟子宮の間には癒合筋膜が存在する
この二つを理解したうえで膀胱剥離を開始することが必要になってきます。
強いテンションをかける
まずは組織が異なるものを剥離するときは必ず、テンションをかける必要があります。
膀胱と子宮は発生学的に膣という発生の集合場所があります。そのためかなり強いテンションをかけないと、膀胱と子宮の位置関係がはっきりしないのです。
マニュピレーターや膣パイプを強く押し込み、そのうえで膀胱を持ちあげることで子宮と膀胱の位置関係がはっきりさせる必要があります。
癒合筋膜の把握
鏡視下手術では癒合筋膜を特に意識して剥離を行う必要があります。
なぜなら開腹の時代は腹腔内で操作しないといけないという縛りがなく、腹腔外まで引っ張り上げることでかなり強いテンションをかけることが可能でした。
そのため、鈍的に”剥がれる層”でクーパーやガーゼを用いた鈍的剥離が簡単に行うことが出来ました。
しかし、腹腔内で操作をしないといけない鏡視下手術では開腹手術ほどのテンションをかけることはできないため、拡大視野を取れるという強みを持って癒合筋膜を把握しながら剥離を行う必要が出てくるのです。
ちなみに、癒合筋膜の上は膀胱側の腔となり、下は子宮側の腔となります。剥離自体はどちらでも行うこと可能です。
次回以降は実際の手順を、正面突破とサイド突破に分けて説明していきます。お楽しみに。
今日からできること
癒合筋膜を意識する。
まとめ問題
以下の選択肢のうち、膀胱剥離に関して最も正確な説明をしているものはどれでしょうか?
- A. 腟と膀胱は完全に異なる発生学的起源を持っており、癒合筋膜は存在しない。
- B. 膀胱剥離では、強いテンションをかけずに膀胱と子宮の位置関係をはっきりさせることが可能である。
- C. 癒合筋膜は、膀胱側の腔と子宮側の腔の間に存在し、膀胱剥離において重要な役割を果たす。
- D. 鏡視下手術では、腹腔外まで引っ張り上げることが可能であるため、癒合筋膜を把握する必要はない。
解答:C. 癒合筋膜は、膀胱側の腔と子宮側の腔の間に存在し、膀胱剥離において重要な役割を果たす。
解説: 選択肢Cが正しい理由は、腟は膀胱側と子宮側に分かれる発生学的起源を持っており、膀胱と腟子宮の間には癒合筋膜が存在するからです。膀胱剥離を行う際には、強いテンションをかけて膀胱と子宮の位置関係をはっきりさせる必要があります。また、開腹では腹腔外まで空間を利用することが出来ますが、それが出来ない鏡視下手術では拡大視野を用いて、癒合筋膜を把握しながら剥離を行うことが重要です。