背側から攻略!仙骨子宮靭帯を“先手必勝”で下から切る理由 

3 min

手術室で「もう少しで終わるはずなのに、ザクロが切りきれない・・・」と汗をかいた経験はありませんか?

子宮全摘のクライマックスで立ちはだかるのが 仙骨子宮靭帯(せんこつしきゅうじんたい:子宮を仙骨に繋ぎ骨盤奥で支える太い靭帯)です。

ザクロをしっかり切りきれていないと腟管切開が本当に難しくなりますよね。

実は、切りはじめの場所を変えるだけで、その“ラスボス感”はあっけなく消えます。

この記事でわかること

・なぜ上から切ってはいけないのか
・背側アプローチが楽になるメカニズム
・具体的な切り方と注意点

仙骨子宮靭帯、まずは位置をイメージ

子宮頸部の両サイドから斜め後方へ伸び、仙骨側に固定される腹膜下の繊維組織のたわみ――それが仙骨子宮靭帯です。

前面はマニュピレーターやロボットアームで持ち上げるとたわみますが、背面は骨盤壁にピタッと貼り付きほとんど動きません。この「背側で固定、腹側で可動」という二面性が切離方向のカギになります。

背側から切ると何が起こる?

核心は一文でいうとこうです。

靭帯を支点側(背側)から先に断つと、残りがずり落ちず処理が綺麗にできる。

わかりにくいので、何個かに言い換えてみます。

上(腹側)から切るとずり落ちるので、下(背側)がさらに切りにくくなる

組織を切ると、子宮の可動性が上がり子宮が上に上がるが、ザクロは背側に固定されているので相対的に背側に落ちる。

基本的に人間上から処理したくなります。開腹の時代から上から上から処理していますし、ダイヤモンド配置(術者の右手が下腹部正中)の場合も上からになります。

しかし、仙骨子宮靭帯は幅広い組織になるため、上から切るとどんどんずれ落ちていきます。

画像で見る

少しわかりにくいので画像で見ていきましょう

こちらは仙骨子宮靭帯の処理の場面です。バイポーラーで掴んでいる部分をザクロとします。

わかりやすくするため、

左上から

赤いボックス①

黄色いボックス②

青いボックスとします。①が一番高く、③が一番低い位置に存在しています。

上から切ると

例えば、上からつまり、①を切ると子宮が上のテンションかかっていると、②③が想定的にずり落ちます。①は外れて縮みます。

さらに上から②切ると残った③がさらに下に下がります。
そうすると、元々下にあった③がさらに下に行くことで処理が難しくなり、結果残ってしまいます。

下から切ると

次にしたから切ってみましょう。つまりから切ると、同じように①②が下がりますが、元々高い位置に存在するので多少ずり落ちても大丈夫です。

上記のように、元々下にあるものは先に処理してしまった方が良いのです。

腹側を先に切る: 支点が残ったままテンションが逃げ、靭帯が下へ滑落 → 毎回持ち直し&深追いで時間と出血が増える。

背側を切る: 固い固定点を解除 → 靭帯全体がふわりと前方へ緩む → 下端が視野中央に留まり処理しやすい。

いろんな言い換えをするなら、いわゆるアルドリッチになるので、やりにくい下の部分を先に処理してしまおうということです。

追加考察:周辺組織の影響

もう一つ、したから行くとずれにくい理由があります。

それは、内側より外側の方が硬いから

尿管下腹神経筋膜などの組織の存在。外側(①側)には尿管下腹神経筋膜や上行枝につながる組織がたくさんあります。

一方で内側(③側)には何もありません、直腸腟間隙ですので可動性がとてもいいです。

可動性がいい方が残ってしまうと、より下にずり落ちやすくなります。

しっかりと固定されている①側はズレにくいので残してあとから処理してもいいのです。

イメージはカーテン。カーテンレールに引っかかっているカーテンです。

上を外してしまうとばさっと全て落ちてしまいますが、例えばカーテンをしたから切っても(どんな状況・・・?w)上は固定されままですよね。そんなイメージです。

たった2つのポイントとつまずきポイント

  1. まずしたからたわみを確認します。できれば処理する手でたわませるとわかりやすいです。
  2. 子宮を軽く前屈マニュピレーターや膣パイプで頸部を前へ押すと靭帯がストレッチされ背側が白く浮き上がります。

よくあるつまずきポイント

  • 「最後まで靭帯が残ってしまう」→ すでに腹側から攻めているサイン。背側を確認して切り直すと一刀両断。
  • テンション不足で靭帯が太く見える→ 子宮をもう前屈。助手に「カウンターのテンションお願い!しっかり子宮あげて!」と声をかけましょう。
  • 尿管との距離が不安→ 背側を切る位置は子宮頸部外側の骨盤壁寄り。尿管はさらに外側を走るので、白い筋が視野に入る程度なら安全圏です。

まとめと次のアクション

仙骨子宮靭帯は“支点外し”が肝。背側から先手を打てば、靭帯はおとなしく処理を待ち、手術全体のリズムが格段にスムーズになります。

次の症例でぜひ試してみてください。きっと「最後に靭帯が残る地獄」とサヨナラできます。

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復習問題

問題
仙骨子宮靭帯を背側(下方)から最初に切離すると処理が楽になると本文で述べられています。その直接的なメカニズムとして最も適切なのはどれでしょうか。A〜D から 1 つ選んでください。

A. 背側を先に切ると子宮が前方に垂れ下がり、靭帯が自然に外側へ開くため
B. 背側を先に切ると支点が解除され、残りの靭帯がずり落ちず視野中央にとどまるため
C. 背側を先に切ると尿管が内側へ引き寄せられ、損傷リスクが減るため
D. 背側を先に切ると腹側の可動域が固定され、子宮が過度に前屈しなくなるため

解答
B


解説
背側(支点側)を最初に切ることで靭帯全体の固定点が解除されます。これにより残存部分が下方へ滑落せず、処理したい端が視野中央にとどまるため、持ち直しや深追いをせずに一気に切離できます。本文では「靭帯を支点側(背側)から先に断つと、残りがずり落ちず処理が綺麗にできる」と述べられており、これが背側アプローチの核心です。選択肢 B が最も正確にこの機序を説明しています。

ごっそ

ごっそ

百名以上からベスト指導医に選出された8年目若手産婦人科医。研修医時代から腹腔鏡練習や動画メインでの復習を欠かさず、たくさんの失敗を乗り越え現在ダグラス窩閉鎖症例やキロ越えのTLH(RASH)を執刀中。日本産科婦人科学会の若手医員選出。教育を充実させる目的で情報発信を開始しています。

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