手術中、「あと一本、手があればなあ…」と嘆いたことはありませんか?
とくに婦人科の腹腔鏡手術では、その嘆きがデフォルトです。でも実は、そこにこそ“職人技”が光るのです。
この記事でわかること
・外科における「三角形」の基本構造
・婦人科手術における手数の違いとその意味
・“子宮の押し上げ”がなぜ重要なのか
目次
外科の術野展開では「三角形」が基本形
一般外科では、腹腔鏡手術の展開において「三角形を作る」ことが鉄則です。「面を作る」と言われることもあります。
これは、助手の固定が2点を取りで構造物を安定させる。術者が操作することで、テンションを処理したい組織にかける。
テンションを幅広く適切にかけることができ、物理的にも安定性が高く、手術視野を保ちやすい。

そのために、ポートは5つが標準装備。術者が2本、助手が2本の鉗子を持ち、加えてカメラのポートがあります。
面と線、処理範囲が大きく違う
面を作れると、下のような大きな三角形の範囲にテンションをかけることができます。
そのため持ち替えが少なく、場を安定させたまま広く処理ができます。

一方で、2点の線の展開だと幅がなく、持ち替えがかなり多くなります。

なるべく、面を作るように展開ができると視野展開が綺麗に安定し、手術が綺麗にできるのです。
婦人科?基本は「4ポート」
婦人科の腹腔鏡手術はというと、基本は4ポートですよね。
術者が両手で2本の鉗子を持ち、助手はカメラともう1本の鉗子。
つまり、助手は原則「1本しか」鉗子を持てません。
つまり、「2点保持」が原理的に難しい。
外科的には禁断の「二角形」…安定性に欠けます。
ここで多くの術者が呟くのです。「もっと、子宮をうまいこともってくれ…!」
その一手、「子宮の操作」を侮るな
実はこの子宮操作こそ、婦人科における影のMVP。
たとえば、骨盤内で子宮を押し上げるだけで、視野は劇的に改善します。
腹腔鏡の世界では、視野の確保が手術そのもの。
子宮操作ができるだけで、靭帯の切離、血管の処理、尿管剥離まで、すべてが滑らかになります。
面で展開できると、処理範囲が広く取れるので、持ち替えが劇的に少なくなります。
私の知人の若手医師も、最初は「視野が取れない」と苦戦していました。
ところがある日、ベテランの指導医に「マニピュレーターの押し上げが足りない」と一言アドバイスされ、次の手術では劇的に安定。助手の手がもう1本生えたようだと感動していました。
子宮は固定臓器
外科と比較しましたが、外科は腸間膜の脂肪同士の剥離など、可動性がよく柔らかい組織を相手にします。
一方で産婦人科は骨盤内臓器なので可動性が悪い。よく言えば固定がされている。
つまり、固定されている部分を一つの手として考えることができます。

※左上の助手が子宮に変わっています。
練習問題
術中常に、どの面で展開ができているか考えながら手術を行うと確実に上達します。
たとえば以下の左広間膜腔の展開の場面だとどうなりますか?

答えはこうなります。

助手の手はもはや消えました。
骨盤と子宮マニュピレーションで広間膜後葉という面ができ、執刀医の左手が前葉を持ち上げることで、綺麗な三角形ができているのがわかります。
本当に子宮のマニュピレーションは大事ですよね。
まとめ
婦人科手術では、ポートの数が少なく、「三角形」を作るには工夫が必要です。その中で「子宮の操作」は、視野確保と展開を助ける非常に有効な戦術です。
子宮マニピュレーターを駆使することで、助手の手が一つ増えたような効果が得られます。
このような工夫と解説を今後もブログで紹介していきますので、X(https://x.com/gossogyne)での更新もチェックしてみてくださいね!
問題
婦人科腹腔鏡手術で「子宮の操作」が重要とされる理由として最も適切なものはどれか?
A. 子宮が硬くて動かないから
B. マニピュレーターを使うと手術が自動化されるから
C. ポート数が少なく、助手の鉗子が1本しか使えないため
D. 子宮の押し下げによって視野が悪くなるから
解答:C
解説:婦人科の腹腔鏡手術では、基本的に4ポートで助手が持てる鉗子が1本のみ。視野の安定性に欠けるため、子宮を押し上げることで補助的な「もう一本の手」として活用される。これは視野確保と術野の展開において極めて重要である。