実は意識して円靭帯を見れるようになってくると、円靭帯を見るだけでそのあとの広間膜の展開のがわかるようになります。
ポイントはただ一つ
円靭帯と骨盤漏斗靭帯が近い場合は広間膜腔の展開が難しいことが予想できます。
今回は、その理由をわかりやすく言語化してお伝えします。
目次
そもそも広間膜腔とは
広間膜腔は人間には存在しない腔です。
え?って感じますか?
では、次の写真はお腹に入った時の写真です。広間膜腔を示してください。
ここですか?
正解と言いたいところですが、厳密には違います。
それはまだ広間膜です。
屁理屈を言っているようですがかなり重要なことなので正確にお願いします。
正解は、まだ広間膜腔は見えていない。です。
実は、広間膜腔とは広間膜(腹膜)の前葉と後葉を広げたときにできる腔です。
広間膜のいずれかに切開を入れ適切なテンションをかけると、陰圧をかけた旅行用バックが広がるように腔が出来るのです。
なので広間膜腔は
人工的に作った広間膜前葉と後葉の間の空間
となります。
円靭帯を見れば広間膜の癒着がわかる理由。
結論から言うと円靭帯を見れば広間膜の癒着がわかる理由は
円靭帯から骨盤に向かっていく腹膜は広間膜前葉、骨盤漏斗靭帯から骨盤に向かっていく腹膜が広間膜後葉だからです。
・・・
意味わかりませんよね。
大丈夫です。1つずつわかりやすく説明していきます。
前葉と後葉の境は卵管です。
卵管より前側、円靭帯、膀胱側を前葉と言い、
卵管より後ろ側骨盤漏斗靭帯、仙骨子宮靭帯を後葉と言います。
ここで簡単に論理の展開を行っていくと
卵管より前側、円靭帯、膀胱側を前葉
卵管より後ろ側骨盤漏斗靭帯、仙骨子宮靭帯を後葉
↓
円靭帯は前葉
骨盤漏斗靭帯は後葉
勘のいい人ならわかりますよね。
円靭帯が骨盤漏斗靭帯に近い場合はこのように言い換えられます。
前葉がついている円靭帯が後葉がついている骨盤漏斗靭帯、に近い。
つまり、円靭帯と骨盤漏斗靭帯距離 ≒ 前葉と後葉の距離
と予想できるのです。
円靭帯による広間膜の癒着の予想が大切な理由。
ここまではわかったと。”それで・・?”ってなりましたか
この円靭帯による癒着予想はめちゃくちゃ大切です。その理由は
内膜症
でました内膜症。内膜症の手術での怖さから説明します。
内膜症が怖い理由
手術で怖いのは事前に把握できなかった落とし穴のほうです。
巨大子宮筋腫であれば自己血なり、血管内バルーンなり対策を打てますし、チョコ症例であれば時間を多くしたり、直腸プローべなどを用いて対策を打てます。
何より時間を多めに設定しているので焦ってやらずに済みます。
ところで内膜症って術前わかりますか?
チョコがあるとか子宮後屈などの所見があればもちろんわかります。
しかし、全体の1割の方にみられる内膜症には腹膜の病巣のみの症例も含みます。
つまり・・・
術前評価しきれなかった広間膜同士の癒着が1割程度にみられるのです。
簡単な症例と術前認識していたのに急に内膜症により難しくなったのに、手術時間は簡単な症例として設定してる。そうすると限られた手術時間で手術を終わらせる必要が出てくるのです。これは焦りますよね。
円靭帯による癒着予想の大切さ
ここまでくればもうわかりますよね。術前に評価できなかったリスクを瞬時に把握できるということが最大のメリットになります。
内膜症によらず、脂肪の炎症による癒着、子宮の圧迫による癒着様々な癒着が予想できます。
腹腔内を見た瞬間に把握できる円靭帯と骨盤漏斗靭帯の距離が安全に手術を行うため大切なのです。
特に、前方アプローチにおいて大切になってきます。
前方アプローチの広間膜腔の展開の記事で詳しく説明していきたいと思います。
今日からできること
円靭帯と骨盤漏斗靭帯が近い時は子宮の観察を念入り行う。
まとめ問題
1.以下の選択肢から、広間膜腔に関する正しい記述を選んでください。
- A. 広間膜腔は、人間の体内に自然に存在する腔である。
- B. 広間膜腔は、広間膜(腹膜)の前葉と後葉を広げたときにできる腔である。
- C. 広間膜腔の境界は、卵管によって区切られている。
- D. 内膜症の手術では、広間膜腔の評価は不要である。
正解: B. 広間膜腔は、広間膜(腹膜)の前葉と後葉を広げたときにできる腔である。
解説:
広間膜腔は、人間の体内には自然に存在しない腔であり、広間膜(腹膜)の前葉と後葉を広げたときにできる腔です。広間膜の前葉と後葉の境界は卵管です。広間膜腔の評価は、内膜症の手術で重要な役割を果たし、事前に評価できなかったリスクを瞬時に把握できることが最大のメリットです。円靭帯と骨盤漏斗靭帯の距離を見ることで、広間膜の癒着を予測することができ、手術の安全性を向上させることができます。
次の選択肢のうち、広間膜の癒着を評価する際に円靭帯と骨盤漏斗靭帯の距離が重要である理由はどれでしょう。
- A. 円靭帯と骨盤漏斗靭帯の距離は、術前の内膜症の診断に役立つ。
- B. 円靭帯と骨盤漏斗靭帯の距離が近いほど、広間膜腔の展開が容易である。
- C. 円靭帯と骨盤漏斗靭帯の距離は、術前に評価できなかった癒着のリスクを瞬時に把握するために重要である。
- D. 円靭帯と骨盤漏斗靭帯の距離は、手術時間の短縮に直接的に関係している。
解答と解説: 正解は C です。
円靭帯と骨盤漏斗靭帯の距離が、広間膜の癒着を評価する際に重要である理由は、術前に評価できなかった癒着のリスクを瞬時に把握できるためです。手術中に予期せぬ癒着が発見された場合、手術の難易度が上がり、手術時間が限られている状況では焦りが生じることがあります。円靭帯と骨盤漏斗靭帯の距離を把握することで、手術中に安全に対処することができるのです。
次回は”とりあえず真ん中”ではいけない時に移ります。お楽しみに。