ロボット手術のとき、アーム同士がガチャガチャとぶつかって「あぁっ!やりにくい!」と感じたことはありませんか?
ロボットアームは便利な反面、正しく使わないと自分で自分の首を絞める結果になりかねません。でも大丈夫、コツはあります。しかもたった一つの考え方に集約されるのです。
前回は、一旦3rdアームを離すことで、大きな球(ワーキングスペース)ができて干渉を防げると言う原理の話を行いました。
この記事でわかること
- 3rdアームの本当の役割
- アーム干渉を防ぐ配置のコツ
- 現場で役立つ“リストの向き”の考え方
目次
各アームは「なんの手?」
まず覚えておいてほしいのは、ロボットアームには“役割分担”があるということです。
3rdアームは、まさに「助手の手」そのもの。
術野を大きく展開してスペースを確保するために使います。”大の展開”や”場を作る”と言いますね。
一方、1stと2ndアームは「執刀医の両手」。
実際に手術を進めていくためのアームになります。この2本で組織を微調整しながら、慎重に剥離を進めていくのです。
つまり、こういうことになります。
- 3rdアーム:展開の基盤をつくる
- 1st & 2ndアーム:その空間内で繊細に操作する
この役割をきちんと認識しておくだけで、動かし方がグンと変わってきます。
この記事で展開方法については詳細を書いています。⇩
干渉の原因は“手の向き”にあり
では実際の配置について。
アームがぶつかって困る、というとき、その多くはアームのリスト(手)の向きが原因です。
例えるなら、思いっきり内股にして動いているようなもの。そりゃあぶつかってしまいます。
理想的な配置はこうです:
手が向かい合うように配置する。つまり、1st・2ndアームを使いたい向きと相対するように、3rdアームのリストの向きと合わせて配置する
例えば以下の図を見てください。
以下の3点を把持したいと思います。

この時の配置は以下のようになります。
まず、3rdアームがなるべく外側に行くように配置します。つまり内側に手を向けます。(前回の記事参照)

そしてその後の、1stと2ndの手が向かい合うようにします。

イメージは、3rdアームが空間を押し広げてくれて、1st・2ndアームがその中で繊細な作業をする“舞台”を与えてくれている感じです。
失敗例
これが持つところは同じで反対向きにするとどうでしょうか
まず、カメラに近くなるように3rdアームを手首が外側になるように配置します。

そして1st.2ndアームも手が外側に向くように配置。

アームの位置を見てください。だいぶ窮屈になっていますよね。
もはやカメラ当たってます。
手を外側に向けると干渉しやすいのです。
ある日のオペ:3rdアームが空気を変えた
ある症例、巨大子宮のRASHで行っていたときのことです。
助手が腟パイプで良いテンションを取ってくれていたものの、1stアームでどうしても届かない、角度が取れないという場面がありました。
そこで私は、3rdアームで子宮を左奥に持ち上げて空間をしっかりと広げてみました。するとどうでしょう、処理したかった右上行枝が見事に露出。あとは1stアームでそっと滑り込ませるだけで処理完了。
「視野が変わると、手術が変わる」とはこのことかと実感しました。
まとめ:3rdアームで空間を操る者が勝つ
ロボット手術で最も重要なこと、それは“空間をどう作るか”。
そして、その空間を操るのが3rdアーム。展開の基礎を築き、1st・2ndアームがその空間で踊るように働く——これが美しい手術のかたちです。
アームがぶつかる? 視野が狭い?
そんなときは、3rdアームの配置とリストの向きを見直してみましょう。
きっと新しい術野が見えてくるはずです。
アーム配置の極意:3rdアームは“助手の手”。そして基本は向かい合わせになるようにアームを配置
次回は、「それでもダメな時・・・」についてご紹介します。X(旧Twitter)で更新通知しているので、ぜひフォローをお願いします。
問題
問題
ロボット手術において、アーム同士の干渉を避けるために重要な工夫はどれか?
A. 3rdアームは操作しないようにする
B. 1stアームと2ndアームを内向きに曲げる
C. 3rdアームと1st・2ndアームのリストの向きを向かい合わせに配置する
D. すべてのアームを同じ方向に向ける
解答
C
解説
3rdアームのリストの向きと1st・2ndアームのリストの向きを“向かい合わせ”にすることで、アームの動線が交差しにくくなり、干渉が防げます。全アームを同方向に向けるとむしろ干渉のリスクが高まります。