「ロボット手術って便利だけど、アームがぶつかって作業しづらい…」そんな経験、ありませんか?
アーム干渉を乗り越えるためのシリーズも最終章に来ました。#1では球を二次元に落とし込んで解説し、#2ではアームの役割ごとに考えるアーム配置といった理論を説明しています。
ただ、実際やってみると理解していてもできないことがなんて多々ありますよね!
今回は理論を超えた実践編となっています!!ぜひ目を通してみてください。後悔させません。
この記事でわかること
- ロボットアームの干渉が起きる理由
- 円ではなく“球”で考えると何が変わるか
- 干渉を防ぐための具体的な配置のコツ
目次
アームの干渉、それは“平面思考”の罠
ロボット手術を始めた頃、私もよくアームをぶつけては「あれっ、動かない!?」と焦ったものでした。
干渉を避けるには空間を上手に使うことが大切ですが、そこで多くの人がハマるのが「円」で考える癖です。
お前がいってたんやろ!と言う声が聞こえてきます。
確かに、上から見れば円の配置(例えばカメラを中心にアームを円周上に配置する)で問題が解決しそうに思えます。
実際、図にすると綺麗に見えるんです。

でも手術は立体です。真横から見たり、奥に進んだり、斜めから剥離したりと、動きは3D。円という2Dの発想だけでは限界があるんですね。
ぶつかった時に考えることは「3rdアームを他の次元に逃がせ!」
では実際の術中での操作ではどうするのか?
答えは・・・
3rdアームを他の次元に逃がせ!!
他次元と言っても、当然時間を遡るわけではないです。
上下、左右、手前奥の3次元から、一つでいいので干渉を取り除けそうな次元を考えて3rdアームを逃してください。
よくわからないですよね笑
大丈夫です。わかるように解説していきます!
基本配置
まず鉗子配置はこうですよね。
1stバイポーラ、2ndモノポーラー(カット用)、3rdカディエール(展開用)

①3rdアームは助手の手として大きい展開を作る
②1stと2ndは術者の両手として処理を行う
この運用が基本です。
例:右の円靱帯の切断
次の画像は右の円靱帯を切ろうとしている場面です。
一旦筋腫が引っ掛けやすそうなのでここを押さえてテンションをかけています

このまま処理するとどうなるでしょうか。
左手のバイポーラー(1stアーム)で円靱帯の奥を引っ張り上げ、右手のハサミモノポーラー(2ndアーム)で処理することになります。
配置はこうなり展開が小さくなっています。

3rdアームと2ndアームが近いですね。
ぶつかりますし。円靭帯を切った後に骨盤漏斗側の処理ができません。
ここで考えるのが、3rdアームを他の次元に逃がせ!
下に逃してみましょう。筋腫に引っ掛けるのをやめて、子宮体部の下を押して展開します。

かなり空間が広がりましたね!アームを書き足すとこうなります。

3rdアームを左に持っていっている段階で干渉しやすいのですが、下に逃すことで干渉を防いでいるわけです。
さらに細かいTIPS
実は抑える時に以下を行なっています。
①手首を曲げて、指先を上に向けてアームの位置を下げている
②下へずらしただけでなく、左手前に子宮を押して空間を広げている
↓曲げているところ

押している様子


このような細かい調整で手術のやりやすさはかなり変わってきます!!
他次元の考え方は“手術の快適さ”に直結する
ある日のロボット手術。子宮体部の処理中、3rdアームがカメラに近すぎて剥離の視野が取れず大苦戦。汗だくで、ロボットなのに原始的な苦労…。
「もう少し奥に配置しておけばよかった…」と反省しながら、ふと思いついたのが“球”のイメージでした。
カメラを球の中心としたとき、3rdアームが手前に向かってきていたのです。つまり、球の中にアームが入り込んでいた。
これではスペースが狭くなり、他のアームとも干渉しやすくなって当然。
そこで、次の症例では3rdアームを球の外に押し出すように配置。
結果、剥離の視野はスムーズ、展開も軽やか。3rdアームがまるで空間を“押し広げてくれる”ように感じられました。
このとき私は確信しました。「ああ、他の次元に逃がせばいいのだ」と。
まとめ:空間を征する者が手術を制す
ロボット手術は立体を活かせる手術です。
どこかアームを逃すことができないかを考えることで、アームの配置も干渉も劇的に改善します。
次の症例からぜひ、「他の次元に逃がせ!!!」を意識してみてください。
「なんか今日はやりやすいな」そう感じたなら、あなたの脳はすでに3Dモードに切り替わっている証拠です。
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問題
ロボット手術においてアームの干渉を防ぐために有効な考え方はどれか?
A. アームの長さを揃えることに集中する
B. カメラから見て左右対称になるよう配置する
C. アームをどこかに逃がせないか考える
D. すべてのアームをできるだけカメラの近くに配置する
解答:C
解説:干渉を防ぐには、アームをカメラ近くに密集させるとスペースが狭くなり、干渉リスクが高まるためDは誤り。左右対称や長さの統一は一因にはなり得るが、立体構造を考慮するCが最も本質的な対策となる。