前回は腹膜は”腹膜”と”腹膜下筋膜”の2枚に分かれるという内容でした。
手術では腹膜の切開ラインがたった1センチずれるだけで展開のしやすさ、他臓器損傷のリスクが全然違います。
いよいよ今回は腹腔鏡下子宮全摘術(TLH)の前方アプローチにおける広間膜前葉の切開ラインについて説明していきたいと思います。
前回は定義など結構抽象的な話をしましたが、今回は、始まりと終わりと切開ラインを示すだけなので手ぶらでお楽しみください。
目次
広間膜前葉切開 始める切開位置
始まりは簡単です。円靭帯の切開部位と同じです。
あたりまえですね。でも「言語化してください!」となると少し難しくないですか?
このブログでは簡単なことでも言語化していきます。では行きましょう。
もし、円靭帯を切っていない状態で前葉の切開部位を決めるならばどこを切開しますか?
・・・
答えはなるべく”子宮に近い”部分となります。
前に聞いたことがありますよね。
これは円靱帯切開部位を決めるときのポイントの一つでしたね。
ここで伏線回収。実は円靭帯をしっかり処理できているといいところで前葉の切開が出来ているのです。
復習ですが、円靭帯を切開する時は子宮側の血管上行枝の近くで切開している(こちら参照)ので、うまく切れているときはそのまま円靭帯切開位置を始まりの位置になっています。。
結論!
円靱帯をきれいに切れている場合は気にせずそのままスタート位置に決めてください。
困難症例などの場合は円靭帯がうまく切れているか自信がない場合
円靭帯の切開をうまく切れたかわからない場合は、
一旦子宮の位置を確認して円靱帯を切った断端の中でスタート位置を再調整してください。
引き連れて上行枝出血させそうだなぁとなれば、離れてください。
巨大子宮筋腫ですごく離れすぎたと思ったら、近づいてください。
↓の術中写真では円靭帯を切断場所が子宮に近に取りすぎて出血をしたため、外側に調整した例を出しておきます。
広間膜前葉切開 終わりの位置
では次に広間膜前葉切開の終わりのパターンは2パターンあります。
①子宮動脈本管まで
②膀胱子宮窩まで
が広間膜の前葉切開の終了位置になります。
①子宮動脈本管まで
子宮動脈を基準とするならば、まず腹膜越しにから拍動をみて場所を決めましょう
この方法は特に膀胱が癒着している症例や、膀胱の位置がわかりにくい場合に有効です。
②膀胱子宮窩まで
膀胱子宮窩まで切開をつなげるときは、先に膀胱腹膜を先に下ろして場所を決めましょう
膀胱腹膜の剥離に関しては、膀胱剥離③ 正面突破 4ステップを参考にしてください。
以上の、どちらかの手順で切開の終わりを決めてください。
最初のころは②の膀胱を先に下ろした方がやりやすいのでおすすめです。
画像でみる実際の切開方法
始まりと終わりが決まれば、あとはどのよう切開ラインを入れるかになります。
今回は実際に行うことですので、1つ1つ丁寧に手順を説明していきますね。
まずは切断した子宮子宮側の円靱帯断端を手前に引っ張り、子宮頸部と子宮動脈行枝や膀胱の位置を確認してください。
そして”子宮になるべく寄って”切開してください。
そうです、なるべく寄ってください!
怖いですよね。わかります。でも寄って切ってください。
裏取りをして安全を確かめながらじっくりと。安全だがなるべく子宮に近く。
それが前方アプローチのコツになります。
そして決めた終わりまで到達すれば前葉の切開は終了です。
子宮に寄った切開がよい理由
最後になぜ子宮に近い切開ラインがよいのか、その意味を考えてみましょう。
ズバリ理由としては、そのほうがより解剖が見やすい広間膜腔になるからです。
また抽象的な話になってきた・・・
そう思いましたね。大丈夫です。
その意味を図を用いてわかりやすく説明していきます!
左広間膜で考えると、この切開ラインは広間膜箱でいうところの、右壁(子宮)と上蓋(前葉)の間を切っています。
図を見ながらイメージしていきましょう。このような展開図でしたね。だんだんわかりやすくなりますので安心してください。
円靭帯を切った後の切開ラインは辺で言うとこのラインですね。
ちょっとわかりにくいですかね?
少し立体的にしていきましょう。疑似的な広間膜腔箱は円靭帯を切った後はこんな感じになります。
そして切開ラインはここになります。
そして広間膜前葉を持ち上げることで蓋を開けるように展開してくと、子宮上行枝と基靭帯が丸見えの広間膜腔が出てくるのです。
わかりましたか?
ここで展開が終わった図と合わせてみるとこんな感じに完成像はなります。
なるべく子宮よりに切開ラインを取ったほうが、あとあとの解剖がわかりやすくなる意味が分かりましたか?さらなる理解の助けのために、切開ラインを子宮から遠くした場合を考えてみましょうか。
切開ラインをもしも、遠くすると
もし切開ラインを子宮から遠くで取ってしまうと図のように、前葉を割ることになります。
子宮から遠い分、余った組織が子宮側に残ることになりますよね。
そうすると子宮側に前葉が付いた状態になります。
子宮動脈に前葉が残っていると子宮動脈の上行枝が見えなくなります。
となり右側に数字が残ってしまいます。切開ラインが子宮から離れると同様のことがおこります。
組織が残ると、その分基靭帯や子宮動脈の把握も難しくなり、結果リスクの高い手術となってしまいます。
近すぎるともちろん出血のリスクも高くなりますが、ここでどれだけ近く寄れるか。これに前方アプローチは尽きますので意識してみてください。
今日できること
勇気をもって子宮かつかつで腹膜を切開してみる
復習問題と解説
問題:
広間膜前葉切開の手術において、円靭帯切開後の切開開始位置を決定する際、最も適切な位置はどこか。次の選択肢から最も正しいものを選びなさい。
A) 子宮から遠い部分
B) 子宮に近い部分
C) 膀胱子宮窩まで
D) 子宮動脈本管まで
正解: B) 子宮に近い部分
解説:
広間膜前葉切開の手術において、切開開始位置は円靭帯の切開位置と同じであるべきであり、これは子宮に近い部分になります。円靭帯を切開する際には、子宮側の血管上行枝の近くで切開されるため、円靭帯が適切に切れている場合、その位置が切開のスタート位置になります。この位置選定は、術中の出血リスクを最小限に抑えつつ、必要な解剖構造を明確にするために重要です。選択肢Aは不適切で、CとDは切開の終了位置に関する選択であり、開始位置を選ぶ際の適切な選択肢ではありません。したがって、Bの「子宮に近い部分」が最も適切な選択となります。
次回は広間膜腔とダビデ像の共通点になります。