前回は、膀胱は発生学的に、子宮と近く血管や膜を共有しているため、強いテンションや、腟膀胱筋膜の理解の必要性をお伝えしました。
今回は、複雑怪奇な膀胱周囲の正面突破法についてお伝えします。
目次
膀胱剥離の正面突破の手順
膀胱剥離の正面突破はオーソドックスな手技になります。
特に、尿管や膀胱の安全を確保したいときや頸管の構造を明らかにしたいときに必要な手技になります。
なぜなら膀胱が骨盤底側に降りることで、子宮と尿路系が離れるからです。
具体的な手順は以下のようになります。
step1.膀胱と子宮の位置の確認
step2.膀胱子宮窩腹膜の切開
step3.腟膀胱筋膜に沿って剥離
step4.腟膀胱筋膜の前後の腔で頸管に沿って左右に広げる
ではそれぞれのステップを画像と共に見ていきましょう。
step1.膀胱と子宮の位置の確認
まずは膀胱と子宮の位置関係の確認です。慣れたチームでやっている場合は無意識に確認が終わっていることもありますが毎回確認するようにしましょう。
初めに、マニュピレーターや腟パイプを左右に振ることで子宮頸管の位置を確認し、カップ付きの場合はエッジを円蓋部に押し当て持ち上げることで腟や子宮頸管の位置を把握します。
次に、膀胱の確認に移ります。見た目でふくらみを見ることもできますし、鉗子で押してみたり、持ち上げることで膀胱の位置を確認します。膀胱カテーテルも一助になりますね。
とりあえず困ったら動かしたりして、2次元の情報を3次元にとらえるようにしましょう。
step2.膀胱子宮窩腹膜の切開
膀胱と子宮の位置を把握できれば、ステップ2に移行します。膀胱子宮窩腹膜の切開になります。
ここではテンションをしっかりとかけて”膜”を切りきることを意識します。腹膜と筋膜ですね。(詳しくはこちら)
手順としては、まず子宮を器具で強く押し込みます。さらに補助鉗子で子宮体下部を押し上げてテンションを増します。これらにより子宮頸管を頭側に押し上げて膀胱と距離を離します。
膀胱実質損傷しないように、薄くそして軽く腹膜と膀胱を持ちあげ、画面上腹側に引き上げます。最も薄くなった部分を切開し膀胱子宮窩腹膜を切開します。膀胱近くでも腹膜切開は可能ですが、安全を取って子宮よりで切開するほうがよいです。
この時は子宮頸管にハーモニックや電気メスが当たるまでしっかりと腹膜を切開します。脂肪のある層をしっかりと切りきってください。
step3.腟膀胱筋膜を同定する
次が一番難しい工程の腟膀胱筋膜の同定の説明になります。ここを間違えると膀胱損傷にもつながるのでとても大切です。
まず、腹膜を持ち直してください。腹膜と膀胱組織を一緒に持ち上げ、頸管よりしっかりと離します。
腹膜を左右に切り広げて腔を広げて、子宮頸管を押し上げ腟膀胱筋膜を同定して行きます。
この時に脂肪と毛細血管を意識してください。
脂肪で考えると、腟膀胱筋膜は脂肪のある層を一層抜けてから見つかります。
血管を見ると、膀胱側の細かい静脈は子宮頸管に対して横向きに走り、子宮側の細かい静脈は縦向きに走ります。
これらを意識して腟膀胱筋膜を見つけてください。
ちなみに腟膀胱筋膜は子宮側でも膀胱側でも剥がれていきます。おすすめは子宮側を進んでいくことです。理由としては、以下が挙げられます。
- 膀胱の表面には細かい静脈が走っている
- 膣切開の時に薄く切ることが出来る
安全性を考えるなら子宮側がよいのです。(はがれやすいのは膀胱側にないります)
step4.腟膀胱筋膜の前後の腔で頸管に沿って左右に広げる
頸管における膀胱剥離は12時方向から膀胱剥離を開始することが大切です。なぜなら、2時10時方向には子宮動静脈から膀胱に対して分枝が存在するためです。
そのため正中で筋膜を同定し、切開ラインまで奥に剥離したのち左右に広げてください。
剥離方法は鈍的にも鋭的にも可能です。子宮頸管に鉗子を押しあて鈍的にも可能ですし、拡大視を駆使し、膀胱や頸管を動かしながら癒合筋膜をとらえて鋭的に切開することも可能です。よい層であればコールドナイフで切開しても出血はしません。
残るは膀胱脚になりますが、こちらは子宮傍組織の部分で説明しますので、いったんは正面突破の膀胱剥離はここで完了とします。
今日からできること
膀胱剥離の手順と理由を理解しておく
まとめ問題と解説
以下の手順の中で、膀胱剥離の正面突破法において最も重要なステップはどれですか?
- A) 子宮と膀胱の位置の確認
- B) 膀胱子宮窩腹膜の切開
- C) 腟膀胱筋膜の同定
- D) 腟膀胱筋膜の前後の腔で頸管に沿って左右に広げる
回答: C) 腟膀胱筋膜の同定
解説: この問題では、膀胱剥離の正面突破法における最も重要なステップを尋ねています。腟膀胱筋膜の同定(選択肢C)が最も重要です。これは、膀胱周囲の正確な解剖構造を理解し、適切な剥離を行うための基本であり、後のステップに影響を与えます。膀胱と子宮の位置の確認、膀胱子宮窩腹膜の切開、そして腟膀胱筋膜の前後の腔で頸管に沿って左右に広げる手順も重要ですが、腟膀胱筋膜の同定が最も重要なステップとなります。