TLH(腹腔鏡下腟式子宮全摘)において、側方アプローチと前方アプローチ、どちらが患者さんの負担が少ないか考えたことありますか?
個人的には前方アプローチのほうが患者負担が少ないと考えて手術しています。
側方アプローチが主流の中、なぜ前方アプローチを選択しているのか?
その理由について説明していきます。
目次
側方アプローチと前方アプローチの違い 手技と剥離範囲
側方アプローチと前方アプローチの違いは交差部同定の違いと、剥離範囲としての違いが大きくあります。
交差部(尿管と子宮動脈)の見つけ方の違い
側方アプローチでは
①骨盤漏斗の高さで尿管を同定します。
②その尿管を交差部までおっていき、子宮動脈を同定し処理します。
前方アプローチでは
①子宮頸管の高さで尿管や子宮動脈を同定します(詳しくはこちら)
②見つけた尿管や子宮動脈を追っていき交差部を同定し処理します。
側方アプローチでは、前方アプローチと比べてかなり頭側で尿管をまず見つけに行きます。これが個人的に患者さんにとってデメリットが大きい点と考えています。
剥離範囲の違い
もう少し詳しい話を行います。
側方アプローチでは骨盤漏斗靭帯と外腸骨動脈の間を大きく開けて尿管を同定します。そのため、剥離範囲としては外腸骨~内腸骨~基靭帯の範囲になります。
一方、前方アプローチでは子宮に沿って腹膜を切開していくため(詳しくはこちら)、切開は少なく、うまくいくと円靭帯~子宮~基靭帯の範囲になります。
剥離範囲の広さが側方アプローチと前方アプローチの大きな違いになってくるわけです。
実際どれほど違うか見ていきましょう。次の写真は帝王切開三回の方のTLH+BSO(腹腔鏡下に子宮と両側卵巣卵管切除)の術中写真になります。
いつも前方アプローチで交差部を同定したのち、膀胱剥離は子宮頸管のサイドからの処理を行っている(詳しくはこちら)のですが、帝王切開による癒着が強く円靭帯の癒着が強く後葉がうまく剥がれなかったため、危険と判断し、側方アプローチ(骨盤漏斗靭帯の高さで尿管を同定)に切り替えました。
珍しい写真になりますが、左が側方アプローチ後、右が前方アプローチ後のTLH終了時の写真になります。
一目瞭然、右の前方アプローチのほうが組織がより患者さんに残せている状態になっていますね。
実際に起こりえる合併症
しっかり剥離できることは良いことですが、必要以上の剥離を行ってしまうと固定組織がなくなり、多くのデメリットが生じます。
・遺残卵巣の捻転
・術後臓器損傷のリスクの増加
・次回手術時のリスクの増加
臓器に対して、周辺組織が残らないということは他臓器損傷や捻転などのリスクが高まります。そして、次回手術時のリスクも高まります。。
外腸骨動脈と腸が直接くっついている状態と、間に組織があり外腸骨、組織、腸とくっついている状態どちらがいいかは述べるまでもないです。下の図で言うと左にS状結腸が癒着したのち、左半結腸切除が必要となった場合の困難さは想像もしたくないですよね。
どこまで剥離して、逆にどこは剥離せずに済むのか。これをしっかり考えられると次なるステップに行けると信じています。
特に卵巣温存の時は卵巣腫瘍による再手術の可能性や遺残卵巣茎捻転を考慮してなるべく少ない腹膜切開で行えるとよいですよね。
以上、なぜ私が前方アプローチでTLHをしているかの雑記的な記事でした。Xやってます。ためになったよって方はフォローお願いします。
アクションプラン
・必要な剥離範囲を考える。
・必要のない剥離がないか考える。
まとめ問題と解説
質問: 腹腔鏡下腟式子宮全摘(TLH)における側方アプローチと前方アプローチの違いとそれぞれの患者負担について、次のうち正しいものはどれでしょう?
選択肢:
- 側方アプローチは前方アプローチよりも患者の負担が少ない。
- 側方アプローチでは尿管を骨盤漏斗の高さで同定し、前方アプローチでは子宮頸管の高さで同定する。
- 前方アプローチでは剥離範囲が広いため、患者への負担が大きい。
- 前方アプローチでは次回の手術時のリスクが高まる。
答え: 2. 側方アプローチでは尿管を骨盤漏斗の高さで同定し、前方アプローチでは子宮頸管の高さで同定する。
解説:
このテキストには、TLH(腹腔鏡下腟式子宮全摘)の手術方法としての側方アプローチと前方アプローチの違いが説明されています。側方アプローチでは尿管を骨盤漏斗の高さで同定し、子宮動脈を同定して処理します。一方で、前方アプローチでは子宮頸管の高さで尿管や子宮動脈を同定し、処理します。前方アプローチは剥離範囲が狭く、患者にとっての負担が少ないとされています。そのため、選択肢2が正しいとされます。選択肢1、3、4はテキストの内容と矛盾しています。