腟管の切開のときになかなか切りきれなくて困ったことはありませんか
実はそれ、広間膜後葉の処理が原因かもしれないんです。
腟管がなかなかうまいこと切れないと悩んでいる方だけではなく、子宮動静脈上行枝の処理がうまいこと処理が出来ないなど、子宮全摘を行うすべての人に当てはまる内容ですのでお見逃しなく。
円靭帯、広間膜前葉、子宮動脈、附属器の処理が終わりました。
これから、子宮の背側の処理に移っていきます。
目次
広間膜後葉処理の手順とコツ
広間膜後葉の処理は大きく分けて、切開ラインの決定と切開の二つになります。
切開ラインの決定
切開ラインは、仙骨子宮靭帯を基準に決めます。
切開
電気メスや、エネルギーデバイスを用いて、頸管と腹膜の間の組織を剥離しながら切開ラインに沿って切開していきます。
切開ラインの詳しい解説
では詳しい解説に移っていきます。
実は、切開ラインの共通したルールが存在します。
それは、”切開ラインによって上昇するリスクのが変わってくる”ということです。
対象臓器に近いと出血のリスクになり、遠すぎると組織が臓器に残りその後の処理がうまくいかなかったり、他臓器損傷のリスクとなります。
具体的には、広間膜後葉の切開ラインにおいては、以下のリスクが上昇します。
- 奥に行き過ぎると基靭帯損傷
- 切り込まなさすぎると傍子宮組織の処理が出来ない
- 子宮から離れると尿管損傷
- 子宮に近すぎると血管損傷
つまり、よい切開ラインはこういえますね、離れすぎず近すぎず、
”ちょうどいいところ”
安心してくださいちゃんと説明します。
ではどうする?
前葉の切開の時はどこが切開ラインの基準となったか覚えていますか?
そう、膀胱の位置が基準となりましたよね。(詳しくはこちら)
同様に後葉の切開の時でも基準となる部位があります。それは、仙骨子宮靭帯となります。
前葉では膀胱、後葉では仙骨子宮靭帯というわけですね。
子宮をレトロ(寝かせた)状態の見え方
ちなみに、なぜ仙骨子宮靭帯が切開ラインの目印となるのでしょう?
それは
円蓋部(ポルチオ)と腟のラインもわかりやすい
という部分が最も重要な理由となります。出血がしにくく触りやすいのもいいですね。
仙骨子宮靭帯の超具体的な同定方法
でも仙骨子宮靭帯を同定できなければ基準点にできませんよね?
安心してください、仙骨子宮靭帯の具体的な同定方法を説明していきます。
まず、子宮を前屈にします。
なぜなら、仙骨子宮靭帯は子宮を前屈させることで認識がしやすくなります。そして左右にねじるようにしてみてください。そうすると認識を容易に行うことが出来ます。
ただ、腟パイプやマニュピレーターの種類により見え方が若干変わります。各病院で使われている機器の種類の特徴によって変わってくるわけです。
腟パイプや円蓋部を同定するカップのあるマニュピレーターでは円蓋部を基準に同定します。
ややパイプやカップが大きいほうが仙骨子宮靭帯が屈曲し同定しやすくなります。
アトムのマニュピレーターのように円蓋部を同定できないものでは少しひねることで屈曲部の角で仙骨子宮靭帯を容易に同定することが出来ます。
共通することは仙骨子宮靭帯を屈曲させるようにするというところです。
やや不潔ですが、位置がわかりにくい時は、自分でマニュピレーターや腟パイプを動かすことで位置を同定してください。
仙骨子宮靭帯を同定できた場合は、凝固や切開で基準点に印をつけ、そこに向かって切開ラインを決めます。
切開ラインが決まりました。あとは切開方法がわかれば、後葉の処理は終了します
広間膜後葉切開方法の詳しい解説
広間膜後葉を実際に切るまでに、二つの処理があります。一つが、上行枝周辺組織の処理、もう一つが尿管下腹神経筋膜の切開になります。
子宮動静脈上行枝周囲の組織を”だいこん掘り”のように処理する。
イメージとしては、子宮頸管、特に子宮動静脈の上行枝の組織を剥離していくイメージを持っていください。
子宮頸管が円柱として、それをつるつるにしていくようなイメージです。
子宮全摘のことを”大根掘り”と例えることがありますが、この上行枝の組織の剥離は大根掘りでのは大根の周りについた泥をそぎ落としていくようなイメージです。
つまり、大根(子宮)が地面(骨盤底)に刺さっており、それを周りの土(周りの組織)を落としながら引っこ抜いてくるイメージになります。
今回で言いうと、子宮動静脈の腹側は前葉切開で切れているため、子宮動静脈上行枝の背側側の組織を処理できれば良いわけです。
そのためには、広間膜後葉のテンションどうすればよいでしょう?
正解は外側やや背側です。
鉗子で広間膜後葉を外側やや背側に引っ張ることで上行枝と後葉間の組織を視認でできます。つまり頸管と腹膜の間の組織が見えるため処理がしやすくなります。
ここを処理できれば後葉(腹膜)のみになり、この後の処理もきれいにすることが出来ます。
膜を意識した後葉の処理
上記の処理を終わった後の処理に移っていきましょう。
広間膜後葉には、腹膜の他、尿管につながる層がついています。
いわゆる、尿管下腹神経筋膜と言われるものです。
腹膜と尿管下腹神経筋膜の間を剥離して子宮側で、尿管下腹神経筋膜を落とせると尿管を外側に逃がすことが出来るためより安全に頸管の処理をすることが出来ます。
具体的には、先ほどの展開と同じ状態で、後葉をピンっと張ります。
ここにあわあわの組織が見えます。
そして、腹膜かつかつで層と層の間に入るように鉗子操作を行うと、二つに分けることが出来ます。
そして、上の層のみカットします。
これらの作業によって、尿管を外側に逃がすことができます。そのため、より頸管の処理のときにより安全に行うことが出来ます。
子宮傍組織の処理の時にはこのように見えます。
これを仙骨子宮靭帯の深さまで行い後葉の処理は終了となります。なかなか、ここまで意識して処理することは少ないのではないでしょうか。
できそうにないしょうか?
いや大丈夫。
意識をすることで見えるようになってきます。
そして、逆に意識しないと全く見えてきません。
いままで意識できていなかったところを意識できれば、より安全な手術が行え、高難度の症例でも合併症なく完投することが出来ることでしょう。
リスクの少ない症例ほど丁寧に。高難度の症例ほどいつも通りに。
こう意識していきましょう。
練習問題と解説
問題1:腟管切開の際に、切開ラインの基準となる部位は何でしょうか?
A. 広間膜前葉
B. 子宮動脈
C. 附属器
D. 仙骨子宮靭帯
答え: D. 仙骨子宮靭帯
解説: 腟管切開の際に、切開ラインを決定するための基準は仙骨子宮靭帯であり、適切な切開位置が決定され、子宮全摘の安全な実施が可能となります。
問題2:広間膜後葉切開の適切なテンションはどの方向でしょうか?
A. 内側やや背側
B. 外側やや背側
C. 外側やや腹側
D. 内側やや腹側
答え: B. 外側やや背側
解説: 子宮動静脈上行枝の背側側の組織を処理するためには、広間膜後葉のテンションは外側やや背側となります。これにより、上行枝と後葉間の組織を視認し、処理が容易になります。
問題3:仙骨子宮靭帯の同定を容易にする方法として最も適切なのはどれでしょうか?
A. 子宮を前屈させる
B. 子宮を後屈させる
C. 子宮を左側に傾ける
D. 子宮を右側に傾ける
答え: A. 子宮を前屈させる
解説: テキストによると、仙骨子宮靭帯を同定するためには、子宮を前屈させることで認識がしやすくなります。前屈したうえで左右に振るとより認識しやすくなります。
次回は仙骨子宮靭帯の処理について説明します。お楽しみに。