結局、鈍的剥離と鋭的剥離はどっちがいいの? 

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今回はコラム的に普段、質問を受けるものに答えていきたいと思います。

質問はこちら

”鋭的剥離と鈍的剥離はどっちがいいの?”

剥離って大切ですよね。どんな手術でも必要な剥離技術。剥離こそが手術という意見もあるぐらい大切なスキルですよね。

手術ばかりをやっている婦人科医だけでなく、帝王切開ばかり行っている産科医にとって大切な内容になります。もちろんその両方を行っている産婦人科医にも、つまり全産婦人科医にとって必見の内容になっています。

一昔前は、手クーパ、チギレクトミー(手で組織引きちぎる様)という用語が出来るほど鈍的剥離がメインの産婦人科手術でした。

最近は鋭的剥離が隆盛を極めていますが、本当に鋭的剥離がいいのか考察していきたいと思います。

そもそも剥離とは?

そもそも剥離とは、物と物の間をはがしていくことを言います。

いうならば、段ボールに張られたガムテープをはがすようなものです。

剥離を細かく順序で述べるとこうなります。

①物と物の間の接着剤となるものを伸ばす

②その伸びた接着剤となるものを処理する。

段ボールで考えると、少し引っ張るとまさに接着剤が線状に見えますよね。これを処理すると剥離が完成するわけです。

術中うまく剥離が出来ると、組織同士が離れるため他臓器損傷や出血を抑えることが出来ます

逆に、下手に剥離を行うとかなり危険な状態になります。

ガムテープをテキトーにはがすとびりびりにガムテープが裂けたり、逆に段ボールが一部ガムテープに付いてきますよね。

例えば腸管が子宮に癒着している間をはがすときを考えると、下手に剥離を行うと腸が損傷したり、子宮が裂けて出血したりするわけです。

手術は合併症なく終わらせることが何よりも大切です。そのため”剥離こそが手術だ”という言葉の重みが増すと思います。

鈍的剥離と鋭的剥離ってなに?

剥離の手順と重要度がわかったところで”鋭的剥離”と”鈍的剥離”について考えていきましょう。

わかりやすく、先ほどの段ボール、ガムテープスキームを用いましょう。

鈍的剥離とは、指でガムテープを引っ張るなどをして、間の粘着剤を”引きちぎる動作”になります。

鈍的剝離の手順としては

①テンションをかけて接着剤となる部分を線状に出す

そのままテープに力を加えて接着剤を引きちぎる

となります。

一方、鋭的剥離とは、ガムテープにテンションをかけて、先のとがったもの(レターオープナー)などを用いて間の粘着剤を”切る動作”になります。

鋭的剥離の手順としては

①テンションをかけて接着剤となる部分を線状に出す

テンションを追加せず、接着剤の部分を器具で処理する

となります。

①のテンションをかけて展開するは同じですが、②の間の組織の処理が異なるわけですね。

ガムテープスキーマの用語をを手術の用語に反映していくと、

段ボールとガムテープ = 組織や筋膜や膜などテンションをかける対象となる部分

粘着剤 =あわあわの層やFascia、フィブリンやコラーゲンなどのテンションのかかる部分

鈍的剝離の指 = 指や鉗子や吸引管など力を加える装置

鋭的剝離のレターオープナー = 電気メスやハサミやエネルギーデバイスなどの切開装置

になります。

先ほどの段ボールスキームを言い換えると

鈍的剥離は”もの”と”もの”の間にテンションをかけ展開し、Fasciaなどの間の組織を張力を強めることで引きちぎり処理すること。

鋭的剥離は”もの”と”もの”の間にテンションをかけ展開し、Fasciaなどの組織を切開し処理すること。

こう言い換えることができます。

結局間の接着剤の部分を、そのまま組織に力を入れて引きちぎるのか、器具で処理するかの違いになります。

”引きちぎる鈍的剝離””切開する鋭的剥離”ということが出来ますね

結局、鈍的剥離と鋭的剥離どっちがいいの?

長々と剥離について説明しましたが、本題に移りましょう。

結局、鈍的剝離と鋭的剝離どっちがいいの?

結論・・・

リスクが高い場面では細かく処理のできる鋭的がよいが、時間、集中力の節約のためリスクが低い場面なら引きちぎる鈍的がよい。

と考えています。

リスクの高い場面とは、出血や他臓器損傷があり得るような、腹部腫瘍既往、内膜症、CS後などの症例における癒着部位を指します。

え?あらゆる場面で安全な鋭的剝離こそ最強じゃないの?

と思いますよね。

そんなことはありません。この世の中にはある制限があります。

それは、時間と集中力です。

つまり、鈍的剥離が勧められる理由としては、手順を省略できることが大きな理由になります。

なぜ省略できるのか。

引きちぎる鈍的剥離の場合、テンションをかける(展開)と間を処理する(引きちぎる)をテンションを強めるという同一動作で行うことが可能だからです。

まだ、納得できてませんよね。大丈夫です。さらに深堀していきます。

次回は産婦人科手術のこれまでの流れを含めた詳しい理由と、どうすればうまく鈍的剥離を行えるのか、つまり”安全に引きちぎる鈍的剝離方法”に関して解説していきます。お楽しみに!

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まとめ問題と解答


問題: 以下の選択肢の中から、文章の内容に最も適したものを選びなさい。

A. 鋭的剥離は時間がかかるが、リスクが低いので、どのような場面でも推奨される。

B. 鈍的剥離は、リスクが高い場面でも、時間と集中力の節約のため推奨される。

C. 鋭的剥離は、リスクが高い場面で細かく処理ができるため推奨されるが、リスクが低い場面では鈍的剥離が推奨される。

D. 鈍的剥離と鋭的剥離は、どのような場面でも同じ効果が得られるので、どちらを選んでも良い。

答え: C. 鋭的剥離は、リスクが高い場面で細かく処理ができるため推奨されるが、リスクが低い場面では鈍的剥離が推奨される。

解説:剥離は、物と物の間をはがすことで、術中うまく行うことで他臓器損傷や出血を抑えることができます。特に「鈍的剥離」と「鋭的剥離」という二つの剥離の方法に焦点を当てています。鈍的剥離は、物と物の間にテンションをかけ、間の組織を引きちぎることで処理する方法で、鋭的剥離は、物と物の間にテンションをかけ、間の組織を切開することで処理する方法です。リスクが高い場面では細かく処理できる鋭的剥離がよいが、時間や集中力の節約、リスクが低い場面では鈍的剥離が良いと考えています。 結論として、「リスクが高い場面では細かく処理のできる鋭的がよいが、時間、集中力の節約のためやリスクが低い場面なら引きちぎる鈍的がよい。」ため、選択肢の中では、Cが最も適している。

ごっそ

ごっそ

百名以上からベスト指導医に選出された8年目若手産婦人科医。研修医時代から腹腔鏡練習や動画メインでの復習を欠かさず、たくさんの失敗を乗り越え現在ダグラス窩閉鎖症例やキロ越えのTLH(RASH)を執刀中。日本産科婦人科学会の若手医員選出。教育を充実させる目的で情報発信を開始しています。

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