【手術の本質】”手術のうまさ”は解像度だった。

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早速ですがこの場面を見てどこまで細かく見ることができますか?

「ん?なんかこの先生と手術の話があわないなぁ。なんでだろう?」そんな疑問。

「お腹の中ってすごー、これなんだろー」初めて内視鏡モニターをのぞいた学生あるある。

実はこれらは同じ1つの本質によって説明ができます

この記事を読めば、手術上達の本質を理解でき頭がスッキリ、今後の上達に役立つこと間違いなしです。

最近手術をしながら、指導をしながらやっと辿り着いた本質です。

そんな本質を今大流行りの京都観光を例にわかりやすく説明していきます。

京都を「とりあえず京都」と思っていた観光初心者が、金閣・清水を巡り、ついには錦市場で「あの鯖寿司が推し!」と言えるようになるのと同じことが、手術室でもおこります。

最後では“解像度アップ術”を一緒に探検します。旅気分でどうぞ!

1. 手術うまさは解像度だ

まず、手術のうまさは解像度だという話をします。

腹腔を初めて開けたとき、景色は一枚の謎ポスターのようなものです。

急に知らない土地に放り出されたような絶望感。

ところが達人には同じ術野でも、毛細血管の一本一本がありありと並び、脂肪の丘が見えない道を示すコンパスに見える…。

同じ画面なのに、なぜ“見え方”が違うのでしょう?

それは脳での認識の違いです。

同じ視野を見ても、荒い解像度でとらえる段階の脳も、もっと細かい解像度で見ることができる脳もあります。つまり、初学者と上達医との脳の認識の違いです。

解像度が高いと、何が起こるでしょうか。

結論、うまくなります。

この間、上司から言われた言葉です。

「昔のATは、どれだけ早く子宮を取れるが味噌だった。出血させながらでも、よく見えない中でもどれだけ早く取るか。早さで出血量を減らす。手クーパー、千切れくとみーだったよ笑。それが今は安全だよね。血管一本一本が見えて処理できる。そりゃ手術も上手くなるよね。」

手術は荒くいうと、剥がしてちぎって切って焼いて縫うぐらいしかすることがありません。

ただ、細かさが違うと操作が変わり、安全性も段違いです。

疎な結合組織を毛細血管を破綻させないようにちぎり(鈍的剥離)、毛細血管一本一本を焼いて切る(凝固切開)。腟断端を粘膜組織、筋層、筋膜の層がずれないように縫う。

こんなことをしている医師がいたら”うまい”となりますよね。

つまり 上達=解像度の高まり。こう言えそうです。

2. 解像度を高めるとは

解像度を高めるにはどうするかという話をします。たとえば京都観光。

京都に初めて来たとき、多くの人は「とりあえず京都に来た!」くらいの感覚かもしれません。

だけど、金閣寺に清水寺、祇園の花見小路、錦市場のにぎわい……何度も訪れるうちに、地名も方角も自然と身体に染み込んでくる。

やがて「あの漬物屋さんの向かいにあるお茶屋の抹茶が絶品」なんて、細部までわかるようになるのです。

実は、手術の視野認識もまったく同じ構造をたどります。

最初は“お腹の中”という大ざっぱなイメージしか持てなかったとしても、経験と知識を重ねることで、子宮動脈上行枝、尿管下腹神経筋膜、果ては毛細血管の拍動までがくっきりと浮かび上がってきます。

初めの画像を熟達度別に見るとおそらくこんな感じです。

もっと、もっと細かく認識している先生もたくさんいると思います。

そう、「解像度を高める」とは認識をより具体的に細くしていく旅なのです。では、どうすればその“高画質”な視野を手に入れられるのでしょうか?3つのステップでご案内します。

3.手術の解像度を上げる3つのステップ

知識を入れる:まずはうす〜い観光ブックを読め

解像度は脳の認識に依存しています。

解剖書、術式動画、論文はまさに、未来を照らす地図です。

例えば京都に行くとして、“漫然観光”の場合は時間がかかります。

今日京都観光するとして、お寺の配置だったり歴史がわかっていると感じる情報量も桁違いですよね。

ただ、知識を入れる時に気をつけないといけないのは、分厚い資料を読まないこと。まずは、薄いわかりやすーい本から読み始めてください。

初めから論文ベースで知識を入れようとすると潰れます。続きません。スモールステップが最強です。

ある意味このブログも旅行ブログと同じといえますね。このブログで物足りなくなってから、論文ベースでもいいと思います。

経験を積む:そうだ、京都にいこう

観光ブックを眺めるだけで京都を語れますか?

語れたとしてもしれはきっと薄い内容で、実感を伴うようなものではありません。

さらにいうと、一度行っただけで京都を語れますか?
有名な観光地はわかるかもしれませんが、きっと路地の匂いは分かりません。

手術も同じです。何度も経験することでしかわからな聞いことがある。

症例数は解像度向上の原油なのです。結局経験しないと、熟達者になれません。

料理本しか読んでいない人が、プロ並みの料理を作れるはずがありませんよね。

経験数がものを言う。これは残酷な真実です。

言語化する:土産話をするように語れ

見た聞いただけでは記憶はすぐに霧散します。

経験の記憶も同様で、すぐに忘れてしまいます。そのため、終わればその時の難しかったところを他の人に話してみましょう。

自由に話すだけで記憶には残ります。一度思い返すので。

さらに上達につながるコツは、言語化をしっかりすること。解像度をなるべく高くしましょう。

❌今日のオペやばかったですねぇ。
⭕️今日のオペ、膀胱剥離が難しかったですね。なんでだと思いますか。
⭐️膀胱剥離時に、外膜と筋膜の癒合が強くてなかなか層が見つからなかったですね。

言葉にした瞬間、脳内マップは保存されます。

4. 超具体的な練習法

  • ズームイン法:手術動画を適当に停止。どんどんと解像度を高めていく。お腹の中→子宮→頚管→頸部筋膜
  • ネーミング:手術中に全ての組織に名札を付けていく。これは子宮の底部の円靱帯など
  • 色鉛筆マッピング:血管を赤、膜を青で手描きトレース。手と一緒に脳が活性化できるのでかなり認知が深まります。
  • 高解像度の会話:同僚と話す時にあえて細かい単語を使う。頸部筋膜の処理って・・

まとめ

  • 手術の上達は術野認識の解像度の高まりと言える
  • 視野認識の解像度は、経験(現地歩き)+知識(旅行ブック)+言語化(土産話)で跳ね上がる。
  • 解像度が上がると、操作も細かくなる。つまり熟達者となる。

次のオペでは「今日は尿管下腹神経筋膜を呼べるか」をミッションに!

この記事が手術観光のコンパスになれば幸いです。更新情報はX(@sogogyne)で発信予定。フォローして、次の観光地——いえ、このブログでお会いしましょう!

【問題】

手術の「視野認識の解像度」を高める方法について、本文の説明として正しいものはどれか

A. 解像度は経験の積み重ねだけで自然に向上するため、意識的な訓練は不要である。
B. 術野の細部を捉える力は、手術用語の暗記とは無関係である。
C. 解像度向上のためには、経験、知識、言語化の3つをバランスよく行うことが重要である。
D. 細かい部分に注目することは初学者には不要であり、熟練者にしか意味がない。


【正解】

C. 解像度向上のためには、経験、知識、言語化の3つをバランスよく行うことが重要である。


【解説】

本文では、視野認識の解像度を上げるための3つのステップとして「経験を積む」「知識を入れる」「言語化する」が提示されており、それぞれが相互補完的な役割を持つと説明されています(例:京都を巡る旅になぞらえた観点)。AとBはその意図に反する内容であり、Dについてもむしろ初学者こそ意識しておくと視野を動的に理解する助けになります。従って、Cが最も適切な選択肢です。

ごっそ

ごっそ

百名以上からベスト指導医に選出された8年目若手産婦人科医。研修医時代から腹腔鏡練習や動画メインでの復習を欠かさず、たくさんの失敗を乗り越え現在ダグラス窩閉鎖症例やキロ越えのTLH(RASH)を執刀中。日本産科婦人科学会の若手医員選出。教育を充実させる目的で情報発信を開始しています。

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