医師の未来とAI──やりがいはどこへ向かう?AIによる医者の働き方の変化予想。

3 min

ある日の外来、診療している私はふと手が止まった。
AIに入力すれば、鑑別診断、治療方針、説明文まで即座に生成される。
カルテすら自動で要約され、同意書まで下書き済み。
「私、要る?」と、少しだけ肩が重くなった。

医師という職業が大きく変わろうとしている。
その変化は、静かだが確実に、私たちの日常に入り込んでくる。

この記事でわかること

  • AIによって医師の仕事はどう変わっていくのか
  • 「考える楽しさ」が失われる可能性とその影響
  • 新たなやりがいの見つけ方とは?

エンジニアの世界で起きていること

エンジニアの世界では、大きな変化が起きている。

コードをAIに欠かせ、人間はレビューするだけ。

もはや常識だ。コードを書くという手を動かす仕事はAIに任せ、レビューだけ行う。

医療でもきっと同じことが起こる。

AIが鑑別診断を並べ、治療方針を提案し、患者説明のシナリオまで整える。
カルテ作成、処方提案、ガイドライン照合。これらを一瞬でやってのける。
医師の役割は、「診断する人」から「診断をチェックして最終判断する人」へと変わってくる。

この変化を歓迎する声も多い。
実際、過重労働に悩む現場において、AIの助けは大きな支えになる。
でも、心の奥には小さな違和感が残る。

「自分で考える時間が、確実に減ってきている」

医師の仕事、2つの未来

AIの進化によって、医師の働き方は今後2つの道に分かれていくと考えられる。

ひとつは、大量の患者を捌くルート

AIが問診し、カルテを作成し、ガイドラインに従って初期対応を行う。
医師は確認してハンコを押す係になり、「次の方どうぞ」を1日何十回と繰り返す。
ここではスピードと効率が命。考える時間を楽しむ余裕はない。
ファストドクター時代の到来である。

もうひとつは、手術や手技に特化するルート

現在、AIには世界に関わる物理的な肉体を持たない。
そのため手術や手技は「人間の領域」となる。
手術や手技を極めることは、AI時代では大きなアドバンテージになりうる。


だが手術支援ロボットはますます進化し、遠隔操作、AIナビゲーション、さらには自律型ロボットの開発まで進んでいる。「手術を極めれば安泰」という時代も、案外短いかもしれない。

つまりどちらの道を選んでも、「人間だけができる仕事」は急速に狭まっていく。
これは挑戦であると同時に、問いでもある。

医師のやりがい、どこに再配置するか?

「仕事時間が減るかもしれない」という予感を、なんとなく多くの医師が抱いていると思う。
実は仕事は減らない。実際産業革命が起こり、生産性が高まったが仕事時間が減ったわけではない。

実は減るのは「やりがい」である。そして「考える時間の消失」だ。

AIコンビニの失敗から見る未来

AIコンビニというものが中国にある。そこでは、AIが画像解析を行い、仕入れ品出しのタイミングを従業員に教え、それに従い従業員が動くというモノだった。

確かに生産性は上がった。たった一人で忙しいコンビニを回すことができる。しかし、うまくはいかなかった。離職率が高かったのだ。

考えてみてほしい、自分は何も考えず、ただ指示通り動く。トイレに行くにも指示を仰ぐ必要がある。何も自分で決めない。そんな状況でやりがいなどあるだろうか。

医療は不確かさとの格闘だった。
患者の言葉にならない訴えを聴き取り、情報をかき集めて仮説を立て、考えて、迷って、絞り込む。
この「考える時間」こそが、やりがいだったのではないか。

これからの世界で必要な力

では、やりがいはもう戻ってこないのか?

私は、そうは思わない。
これから必要になる力を磨けば良い。

それは「問いを立てる力」だ。
AIは優れた解答者だが、何を問うべきかはまだ人間の領域だ。

  • 患者の価値観をどう診療方針に反映させるか
  • 社会的背景や心理的要素をどう読み取るか
  • 同じエビデンスのもとで異なる選択肢をどう評価するか

ここには、医師の知性と共感、そして倫理的な判断力が不可欠だ。

AIに触れ続けるという意志

変化は待ってくれない。
そして時代を巻き戻すこともできない。
「ちょっと苦手で…」「時間がなくて…」などとAIに距離を取っていると、
知らないうちに「AIを使いこなせる医師」と「そうでない医師」に大きな差がつく。

だからこそ、まずはAIに触れること。
一番初めは簡単な検索させてみる。

できるようになったら対話してみる。そしてAIに入れる指示(プロンプト)を考えてみる。
うまくいかなくても、それでいい。
その違和感や誤差を拾うこと自体が、新しい医療の第一歩になる。

再定義の時代に立っている

医師という仕事は、確かに変わっていく。
でも、それは価値が薄れるという意味ではない。
「考える医療」から「問う医療」へ。
AIという強力な道具を得た今、人間にしかできないことを深く掘り下げるチャンスでもある。

やりがいは、時代に合わせて進化させていけばいい。
まずは今日、ひとつAIで調べてみよう。
その問いこそが、あなたのやりがいの再起動スイッチになるかもしれない。

問題

将来的にAIの活用が進んだ医療現場において、医師に最も求められる力はどれか?

A. 数値入力の速さ
B. 診断アルゴリズムの記憶量
C. 問いを立てる力
D. 手書きカルテ作成スキル

解答:C
解説:AIが診断や治療方針を提示する時代では、それに対して「本当にこれでいいのか?」と問い直す力、人間の価値観や倫理に基づいて判断する力が必要になる。

ごっそ

ごっそ

百名以上からベスト指導医に選出された10年目若手産婦人科医。
研修医時代から腹腔鏡練習や動画メインでの復習を欠かさず、たくさんの失敗を乗り越え現在ダグラス窩閉鎖症例やキロ越えのTLH(RASH)を執刀中。
日本産科婦人科学会の若手医員選出。
教育の充実目的で情報発信しています。

FOLLOW

カテゴリー:
関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です