読者さんから質問が来ました。
医学生の方で、うれしいことに産婦人科希望。
熱心に腹腔鏡の練習と勉強をされているみたいで、わざわざネットで調べてメールをくれました。
質問はこちら(本人に同意を得たうえで掲載。一部省略しています)。
初期研修はどのような病院で行う事が理想でしょうか
先生はどこの病院で、またどんな初期研修を行っていましたか?
個人的にお答えするにつれ、多くの人にとってメリットの大きい内容になりましたので、思い切って記事にしました。
質問は初期研修病院についてですが、少し大きな枠でとらえて研修病院の選び方について解説していきたいと思います。
研修病院をどのように選べばいいのか、根本からきっちり言語化しました。
その分ボリュームが多くなりましたが
研修病院選びをどのように行えばいいのか迷っている医学生や研修医、修練医には道しるべとなる最適なガイドラインとなった自信があります。
今後、後悔したくない人生にしたい人はどうぞお見逃しなく。
目次
”理想的な”研修病院とは
そもそも理想的な研修病院とは何かについて考えていきます。
そもそも物事を考えるには、軸となる基準が必要です。
食事で言うなら
誰と(友人、家族、上司、後輩、初対面など)
どのような形で食べるのか(立ち飲み、コース、アラカルトなど)
他には、金額は?おすすめ料理は?立地は?
もちろん研修病院選びにもいろんな軸があります。
研修体制という軸はもちろん、場所、給与、人数、上級医の学年、強い科(その中でも強い分野)、立地などの軸が挙げられます。
といったところでしょうか。
そのため、一般的に理想的な研修病院といえば、
友人や家族の近くで立地がよく、給料がべらぼうに高く、やる気のある謙虚で優しい同期がいて、やる気があり優秀な上級医がおおく、すべての分野で強い病院。
・・・あります?
・・・ありませんよね?
こんな病院はないですよね。
ちなみに”理想”に関しても、人によって違います。
新しい環境に身を置くことが好きな開放性が高く外向性が高い人は地元より東京など遠く離れた場所が理想的となるかもしれません。
家がかなりのお金持ちで給料は理想の軸に入らないかもしれません。
ひとりでやることが好きな人には、やる気がある人がいると逆にしんどくなることがあります。
近しい上級医が多いとそれだけできる手技が減るとも考えられます。
ある分野が強いところに行くと、発展していく過程を見ることが出来ないこと自体が機会損失になっているのかもしれないです。
”理想的な”研修病院とはの答えは・・・
存在しない
が結論になります。
終了。
・・・
ではだめですね(笑)
これでは意味のない返答になるのでもう少し深堀しましょう
”個人の理想”の病院とは
”一般的な理想”などありえないうえで、考える必要があるのは、”個人の理想”とはなにかではないでしょうか。
食事でも、お肉が好きなのか、魚が好きなのか、野菜が好きなのかで変わりますよね。
一般的な理想病院などないことがわかったところで、”個人の理想的な研修病院”の探し方について具体的に解説します。
個人の理想の研修病院を見つけるには以下の3つのポイントがあります。
①データ集め
②自分の価値観の明確化
③捨てる覚悟になります。
それぞれ軽く説明すると
①データ集め:
判断材料。ネットの情報だけでなく人から聞くことが最も大切になります。
②自己の価値観の明確化:
判断基準。自分とは今まで何が好きで、どうゆう状況で成長したのか、逆に何が許せず、ストレスになるのかを明確化する必要があります。
③捨てる覚悟:
エッセンシャル思考。何を選ぶのかというのは”何を捨てるのか”と同じ。何を選ぶのかではなく、何を捨てるのがとても大切になります。
そして決断時の最後の最後は”縁と直感と勇気”になります。
これだけでは正直何が何かイメージしにくいと思いますので。具体的なアクションプランに落とし込んでいきましょう。
個人の理想を達成する、具体的なアクションプラン
では具体的なアクションプランの例として、
私個人がどのように初期研修病院を選んだのかという話を一つの例としてお伝えします。
①見学に行く病院の設定
まず、自分に病院がわからなかったので、病院の属性で分けて見学に行く病院を決めました。
市中病院なのか大学病院なのか、市中病院でも大きい病院と小さい病院(100床行かない程度)
救急が忙しいのかどうか いわゆるハイポとハイパー
田舎なのか都市部なのか
住んでいるところからの遠さ
給与が高いのか低いのか
といった、属性で探しました。
で気になるところ(先輩が行っているところなど)を何となくピックアップして見に行ってみました。
初めの病院選びは何となくでよいですよ。
実際行ったのは、今の淡〇医療センター以外に、丸〇町音〇病院(市中の小さい病院)、滋〇済〇会病院(市中の大きい病院)、湘〇鎌〇総合病院(救急日本一の病院)、亀〇総合病院(ド田舎のドハイパー病院)、京〇府〇医科大学(出身大学)となります。
これらすべての見学に行きました。確かあと二個ぐらい行ったと思います。
②データ集め
それぞれ、行く前に評価項目を作っていきました。
あとから設定しては聞き逃したり、比較するときに困ることを避けるためです。
立地、給与、研修医の数、学年の近い上級医の数、学年の遠い上級医の数、実際の忙しさ、人間関係などなど聞いておきたいことを決めていきました。
これらをそれぞれの病院に行ったときに研修医の先生と直接お話をし(できれば1対1)データを集めてメモをしていきました。
必ず、実施に働いている医師に確認できるようにお願いしました。
ここでは研修医の先生からの情報が最も大切になります。
行く予定の年から待遇が変わったりしないか。
手技を上級医がさせてくれるのか。
実は無駄な作業ばかりに時間を取られていないのかなどなど。
あんがい車で移動すれは都市部に近かったり、駅まで院内バスが出ていたりします。
ここでのデータが今後の判断でかなり大切になってくるので必ず、事務さんだけでなく近い年代の医師と直接話せる時間を作ってもらいましょう。
③自己の価値観の明確化
次は価値観の明確化になります。
と言われても、自分の価値観はわからないし、価値観ってそもそも何なのかもわからない。
という人が多いのではないでしょうか(私もまだまだ探求中)
ここでの価値観は”何が好きで、何が嫌いで、何を選び、何で後悔したのか”という定義?にしておきます。
価値観がわからないって人は、今まで自分が最も成長したタイミングや、最も楽しかったタイミングを思い出してください。
逆に、最も堕落したタイミグや、もっともつらかったタイミングも考えてみてください。
自分は、部活が体育会系だったので救急が強いハイパーなところがあっていると思っていました。
実際、何か手を動かし、自分で考えて練習したり、成長していくのが好きです。
人と接するのも好きですが、一人で黙々と作業や勉強をするのも好きです。
つまり”私が”最も成長したり楽しかったのは自分でやりかたを考えコツコツ努力したとき。
でも、”やるべきだからやる”とか、”脳死でこうしたほうがいいらしい”とか、”みんながしているからする”とかは嫌いでした。
やらされた宿題とかをやるのは嫌いで、軽く請け負った作業で後悔することがしばしばありました。
とくに、最も堕落しつらかったタイミングは中学の時の部活教師の体罰が最もパフォーマンスを落としたと思っています。
自由が制限されハラスメントが横行している組織には絶対いてはいけないと思っています。
なので方針としては、自己成長が出来、がちがちに縛られているところは避けよう、自分で考えて決める方針としました。
繰り返しになりますが、
価値観がわからないって人は、今まで自分が最も成長したタイミングや、最も楽しかったタイミングを思い出してください。
逆に、最も堕落したタイミグや、もっともつらかったタイミングも考えてみてください。
自分の価値観が明確化するのに大きなヒントが隠れています。
④捨てる覚悟
次は捨てる覚悟になります。
これは集めたデータを自分の価値観に照らし合わせることで行います。
湘〇鎌〇総合病院に行ったとき、知り合いのキラキラしていた先輩の眼が死んでいました(西医体優勝していたような体力ばりばりの人)。
忙しすぎたのです。
確かに力はつくかもしれませんが、自由な時間が必要な自分の価値観に照らし合わせ、
自分で考える時間がなく自分なりの研鑽が出来ない病院はやめることにしました。
ここで、”忙しすぎて自分で考えて研鑽できない病院”が捨てる対象となりました。
上で言うと、亀〇総合病院、湘〇鎌〇総合病院となります。(時間がないかどうかは個人の感想です。現在どうなっているかはわかりません。無常なり)
このように、今あるデータを解釈し、自分の価値観に照らし合わせていきます。
みんながよいと言っている事に疑問を持ち、悪いと言っているところの良いところ、良いと言っているところの悪いところを考えていきました。
例えば、大学のタスキが最もよい(市中と大学が両方経験できる、最新の治療が学べるから)と言われていましたが、あえて悪いところ(同年代が多いので手技が取り合いになる、給与が悪い、学生とかわらない可能性があるなど)を考えていきました。
逆に、不人気な病院のいいところ(自由な時間が多い、自分次第で手技が転がっているなど)も考えていきました。
これを突き詰めて、”一般的に良いとされている病院”を捨てました。それは立地がよかったり、知り合いが多かったりするところです。
理由としては、人気なところというのは病院側が人を選び、条件が悪くなることが多いと考えたからです。滋〇済〇会病院などが消えました(条件が悪いかどうかは当時の私個人の感想です。現在どうなっているかはわかりません。無常なり)
そして自分は好奇心が強く、新しいところや物が好き(趣味は旅行)という価値観を優先しました。
新しいものと出会うには今までの環境や知り合いを捨てる(完全に捨ててはない)こととしました。
ここで、京〇府〇医科大学は消えました。
最新の医療は大学でなくてもネットや動画でいくらでも学べるいまの情報供給の変化も大きいです。
”学年の近い医者が多いところ”も捨てました。学年が近い医者が多いと手技が回ってこないからです。
逆に、学年の離れた先生が多いと、やらせてもらえるチャンスも多いと考えました。
⑤最後は縁と直感と勇気
ここまでで、したことは
病院をいろんな属性で選び、データを直接集め、自分の価値観を明確化し、捨てるものを選ぶ。
これらによって見つけた”私の理想の研修病院”の条件とは
人気病院を避け、知り合いが多いところは避け、近い学年の医師がいるところは避ける
といったかなり一般的ではない理想となりました。
決断の時です。”個人の理想”の病院選びのの最後の決断になります。
最後の決断で大切なことは”縁と直感と勇気”になります。
初期研修病院として実は今いる淡〇医療センターを選んでいます。
理由としては
縁:腹腔鏡のプロであり尊敬できる先生がいたこと、事務の方の雰囲気がよかったこと
直感:この病院は盛り上がると思った。これから研修医を増やそうという意気込みがあり、いわゆる殿様病院とは違った。
勇気:実は自分の1つ上の研修医は2人しかいなかったし、先輩で行っている人も知り合いもいなかった。一番の親友にはやめておけと言われた。が、自分の直感と縁を信じた。
こんな感じで決めました。
当時の病院の状態としては、一般的な人から見たら激悪です。
まず研修病院として定員割れしている不人気病院。滋〇という田舎で立地は最寄りの駅より徒歩20分、学年の近い医者がほとんどいないといったところでしょうか。
激悪ですね。
でも結局、行ってみると自分に合っていて”自分にとって理想的な研修”を受けれたと思います。
確立した研修システムがなかった → 自分がしたいようにできた。そのため毎日腹腔鏡の練習をすることが出来た。今の時代ネットや本でいくらでも学べた。
若い医師が少ない → 手技はやり放題であった。CV挿入はもちろん、外科ローテの時に腹腔鏡下虫垂切除を完全執刀させてもらえた。
研修医を集めている時期 → 給料はいいし、待遇もよかった。
研修医が少ない → 個人の先生として覚えてもらえた(研修医の先生たちというくくりではなく)
立地がわるい → 今の時代タクシーもすぐ呼べるし、京〇の友達と飲みに行くのに1時間とかからず(本やスマホで時間つぶせばいい)、つながりは消えなかった。
田舎 → 人混みを避けられるし、自然でストレス解消が出来た。都会に行くとすごく新鮮で楽しめた。
一般的に理想とは程遠い病院でも、個人的には理想となるわけです。
まとめると、
ファクトフルネスなデータを集め、自己省察で価値観を具体化し、エッセンシャル思考で自分が捨てるべきものを理解できれば、最も優先すべきものがわかり、納得感と勇気をもって”理想的な”研修を受けることが出来る。
結局、理想を達成することは難しいのですが、これは本当に自分で考えて決断するしかないと思います。
見学生にここまでやっている人は見たことがないと言われたことがあります。
しかし、ここまですると後悔することはないと思いませんか?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
皆様の人生が後悔をするとしても、納得した後悔のできる人生になれば幸いです。
もし研修先を悩んでいる人がいましたら、このURLでも送り付けてやってください。皆さんがハッピーで理想的な研修を受けられるますように願っています。
ではでは。
まとめ問題と解答解説
問題:
文章に基づき、理想的な研修病院を見つけるために考慮すべき要素はどれか?次の選択肢から最も適切なものを選びなさい。
A) 立地の良さ、給与の高さ、知名度のある病院
B) 個人の価値観の明確化、データの収集、捨てる覚悟
C) 他人の推薦、医療設備の充実、病院の規模
D) 上級医の学年、研修医の数、病院の名声
答え:
B) 個人の価値観の明確化、データの収集、捨てる覚悟
解説:
この文章は、医学生や研修医が理想的な研修病院を選ぶためのアプローチに焦点を当てています。理想的な研修病院を見つける上で重要なのは、個人の価値観を明確にし、必要なデータを集め、そして何を優先し何を捨てるかの覚悟を決めることです。立地の良さや給与の高さ、病院の名声などは重要な要素かもしれませんが、文章は個人のニーズと価値観に基づく病院選びの重要性を強調しています。そのため、選択肢Bが最も適切です。