尿管同定③ ”魔法のような”尿管同定を行うコツ

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初めてこの前方アプローチ型の交差部同定を見た先生に

”魔法みたいにいつの間にか出ていた”

と言われたことがあります。前方アプローチを極めれば、”魔法みたいに”局所的”に交差部を同定することが可能となります。

今回はその”コツ”についてわかりやすく言語化して説明していきたいと思います。

ここが山場となります。一つ一つ言語化していくので手ぶらで楽しんでいってください。

前回の軽い復習

前回は、前方アプローチでの尿管同定には三つの方法があるという話をしました

①交差部を同定する方法(前方アプローチ型)と、②子宮動脈から追っていく方法(子宮動脈アプローチ型)と、③尿管を側方から追っていく方法(側方アプローチ型)の三つがありましたね。

では①前方アプローチ型の尿管同定について、深堀していきましょう!

発生学からの説明とコツ

直接、交差部が同定できるとい言われても不思議な感じがしますよね。

これは以下をわかっていると腑に落ちるかもしれません。

子宮はミュラー菅由来、泌尿器系は中胚葉由来。
違う由来のもの同士は基本的に隙間が存在する。

発生が違うものは、基本的にすき間が存在します。

川と道路と考えてもいいかもしれません。つまり、違うタイミングでできたものは基本的に交わることはなく、間にすき間が存在し簡単に剥離することが出来ます。(本当に近いものは癒合筋膜など、つながるものもありますが基本は分かれると考えてください)

一塊に考えよう

子宮系の組織、尿管系の組織などと考えるときに、一つのパッキングされた組織と考えると把握しやすいです。

突然ですが、東京都と大阪府の場所を外国人に説明するときはどうしますか?

こう言うとわかりやすいと思いませんか?

”西日本”と”東日本”に分かれて、東の大きな都市が東京で、西の大きな都市が大阪。

人間、まずは大きな解像度の粗い枠組みでとらえたほうが物事を把握しすいです。同様に附属器の組織、子宮の組織、尿管系の組織、外腸骨系の組織と荒い解像度で考えていくと解剖を理解しやすいわけです。

尿管と子宮動脈で考えると、

子宮系のパッキングされたブロックの一番頭側、腹側(上縁ともいう)に存在するのが子宮動脈

尿管系のパッキングされたブロックのど真ん中に存在するのが尿管

大きなブロックで考えるとメリットとしては、それぞれの間にはすき間や疎な結合織が存在するため、そのすき間を開けていくと出血なく組織を同定することが可能となり安全に素早く手術を行うことが出来る点です。

実際の手順としては

①以下のような展開を目指し、脂肪を骨盤側、そして奥につけるように広間膜後葉に沿って剥離する

子宮組織と骨盤の組織と、尿管の組織が大まかに把握する。

子宮の組織尿管組織の間に入ればよいわけです。

ブロックの具体的な把握方法 脂肪は・・・?

ブロックという概念のの大切さは理解できたと思いますが、そのブロックはをどのように把握するのでしょうか?

ここでも脂肪の話が出てきます。脂肪は脈管についているという話を以前しました(こちら参照)。

そのため、子宮動静脈や尿管にも、組織に沿って脂肪がついています。よくよく脂肪を見ると、膨らみ方や血管走行を基準に、基靭帯の脂肪、尿管の脂肪、内腸骨の脂肪、外腸骨の脂肪と判別することが出来ます。

その脂肪を基準にパッキングを見分けることですき間を把握することができ、その結果、出血もなく尿管子宮動脈の交差部を同定することが出来るというわけです。

結局、どの方法がよいの?

いま実際の手術で行っている順番はこのようになります。

  1. 前方アプローチ型で直接交差部を同定しに行く。
  2. 癒着等で難しければ子宮動脈アプローチ型で子宮頚部より血管をたどっていく。
  3. 癒着が強固で難しければ側方アプローチ型で外側を広げる。
  4. さらに難しければ、骨盤漏斗靭帯の横まで腹膜切開する。

基本的にTLHは良性疾患に対する術式のため、広範囲の組織を取る必要はないという考えのもとこのような順番で考えています。

そのため、腹膜の展開がより少なく尿管が同定できる方法から試していき尿管の同定を行っています。

そのため直接見つける方法を優先とし、その次は子宮動脈を追っていき、最後は結局外側に広げていく形となります。

側方アプローチは円靭帯下の腹膜を大きく開けて、骨盤漏斗靭帯近くで尿管を見つけますが、これはかなり大きな腹膜の切開とになり悪性腫瘍の手術であればよいかもしれませんが、良性腫瘍の手術で大きく展開することはデメリットしかないように感じています。

側方アプローチの大きなメリット

これだけは言っておきたいのですが、前方アプローチに対して、側方アプローチが悪いわけではないです。

腹膜を大きく展開することでどれほど悪影響があるというエビデンスはありませんし、ここで前方アプローチの情報は前方アプローチTLHをやっている人のポジショントークと考えてもらったほうがバランスが取れると思います。

個人的に現在、側方アプローチの施設のほうが多い理由として以下のメリットが大きのではないかと考察しています。

①ダイヤモンド型は執刀医の右手の位置の関係で前方よりも側方アプローチを行いやすい。
②若手の指導の時に、尿管を先に同定する手順はわかりやすく安全なためやらせやすい。

またそれぞれのアプローチのメリットデメリットはまとめようとは思っているのでその時に説明していきますね。

今日からできること

剥離範囲をなるべく少なく手術を行う。

まとめ と 練習問題

前方アプローチの前方アプローチ型の尿管同定手術について解説しました。尿管と子宮の発生学的な位置関係や、組織のパッキングの概念を理解することが役立ちます。手術においては、脂肪を基準にパッキングを見分け、すき間を把握して尿管同定を行います。手順としては、前方アプローチ型で直接交差部を同定し、癒着等で難しい場合は子宮動脈アプローチ型や側方アプローチ型を行います。発生学や組織のパッキングの概念を理解し、脂肪を見分ける技術を身につけることが重要です。

次回は前方アプローチの視野における尿管と子宮動脈の位置関係についてわかりやすく説明していきます。お楽しみに。

練習問題

前方アプローチ型の尿管同定手術において、以下のうち誤っているものはどれか。

  • a) 尿管と子宮動脈の交差部を同定することで、手術中に尿管を損傷するリスクを軽減することができる。
  • b) 尿管と子宮の発生学的な位置関係や組織のパッキングの概念を理解することは、手術をスムーズに進めるために重要である。
  • c) 脂肪を見分ける技術は、側方アプローチ型では行われない。
  • d) TLHは子宮全摘術の中でも広範囲の組織を取る必要があるため、腹膜の展開が重要である。

回答:c.d

解説:前方アプローチ型の尿管同定手術において、脂肪を見分ける技術は非常に重要であり、側方アプローチ型でも利用できます。脂肪を見分けることで、尿管の脂肪を同定できるため、尿管自体の同定も容易となり、手術中に出血を最小限に抑えることができます。

尿管と子宮動脈の交差部を同定することで、手術中に尿管を損傷するリスクを軽減することができるというのは正しいです。また、尿管と子宮の発生学的な位置関係や組織のパッキングの概念を理解することは、手術をスムーズに進めるために重要です。

TLHにおいては、基本的に広範囲の組織を取る必要がないため最小限の腹膜の展開を心がけることが大切です。

ごっそ

ごっそ

百名以上からベスト指導医に選出された8年目若手産婦人科医。研修医時代から腹腔鏡練習や動画メインでの復習を欠かさず、たくさんの失敗を乗り越え現在ダグラス窩閉鎖症例やキロ越えのTLH(RASH)を執刀中。日本産科婦人科学会の若手医員選出。教育を充実させる目的で情報発信を開始しています。

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