TCRは特殊技術だと思っていませんか?
抽象化すれば、やっていることは他の手術と同じ。安全マージンを取りながら、剥離し、切るだけ。
技術認定73/80(片方満点)で合格した私が、これらの原則を子宮鏡下筋腫核出術に落とし込んで超具体的に解説します。
前回は子宮筋腫の削り方について説明しました。今回の作業につながるように、U字に切開するとよいという話をしました。
今回は埋まった筋腫へのテンションの掛け方になります。
「簡単でしょ、胎盤鉗子で引っ張るだけでしょ」と思いませんでした?
手引書のように言語化できていますか?
実は胎盤鉗子で引っ張る以外に手があるとしたら知りたくないですか?
お見逃しなく!!!
目次
TCRの概要の復習 ”めくる、削る、引っ張る”
子宮に線維腫である筋腫核を核出することが子宮鏡下子宮筋腫核出術になります

そしてTCRの手順は以下に集約されるという話をしました。この順番はかなり大切なので再度復習になります。
TCRの順番
1めくる(剥離)
2削る(回収)
3引っ張るあるいは収縮させる(テンションをかける)
核出が終わるまで1に戻る。ただし穿孔させない。
STEP3.引っ張るあるいは収縮させる(テンションをかける)
STEP2.削るの終了時はこちらになります。


次のステップとして、
引っ張るあるいは収縮させる、つまり強いテンションをかけるステップに入ります。
手が一本しかないことはTCRの大きな大きな弱点です。
一本ということは場を作るようなテンションをかけながら剥離作業をすることができません。
そのため、まさに剥離している時の操作以外で、一度どこかで強くテンションをかける必要が出てくるわけです。
次のクールに繋げるステップ
では、引っ張るあるいは収縮させて強いテンションをかける目的はなんでしょうか??
TCRの最終目標は子宮穿孔を防ぎながら安全に手術を終えることでしたね。
子宮穿孔を防ぐには筋層の深くに入り込まないことが大切。つまり、筋腫の突出率を高めることが穿孔を防ぐことになるわけです。
大きく分けて、
①胎盤鉗子で直接筋腫を引っ張る方法と②子宮を収縮させることで筋腫を押し出す方法があります。
胎盤鉗子で牽引



こんな感じで筋腫を引っ張ることで鈍的に剥離され、筋腫が飛び出てくる(突出率が上がる)ため安全に手術を行えます
子宮収縮剤投与
子宮収縮の方はどうでしょうか。イメージとしてはこちらのようになります。


子宮が収縮することで、筋腫が押し出されて突出してくるわけですね。
具体的には、プロスタグランジン1000μgを頸管に局注することで子宮が収縮し押し出されてきます。
ただし、収縮するとその分子宮体部が狭くなるため、基本的にはこの方法は使わずに、突出度が低く引っ張りが難しい時に行うようにしてください。
実際の引っ張り方
実際のやり方は以下のようになります。事前にどうやって引っ張るか具体的なイメージを掴んでおきましょう。
この時に大切なのも、穿孔させないこと。繰り返しになりますが、これが最も大切になります。
実際の引っ張る時の手順は以下のようになります
1.引っ張りやすいように筋腫を整形する
2.なるべく太い胎盤鉗子を子宮内に入れる
3.筋腫を掴んだら強く牽引する
4.覗いてよければSTEP1の剥離に戻る。
引っ張りやすいように筋腫を整形する
筋腫を引っ張る時にどのように引っ張るかイメージができている必要があります。
筋腫を小さくすると、剥離層が狭くなり胎盤鉗子でつかみにくいことがあります。その時は引っ張りやすいように剥離を追加するとよいです。
先ほどの終了時の状態だと掴みにくい状態です。

なので追加で癒着部位を剥離し、サイドを削って引っ張りやすくしました。

認定医症例で突出度が元々高いので、整形の段階でほとんど剥離できてしまってますね。
なるべく太い胎盤鉗子を子宮内に入れる
つぎに胎盤鉗子を子宮に入れます。胎盤鉗子挿入時に気をつけるのはなんでしょうか??
もういいですよね。防ぐべきは子宮穿孔になります。
そして子宮穿孔しやすいのは細い胎盤鉗子と太い胎盤鉗子どちらになりますか?
細い胎盤鉗子になります。細いとそれだけ局所に圧がかかるので穿孔がしやすくなります。
安全のため、なるべく太い胎盤鉗子を使用しましょう。
ただし、太すぎると頚管を通らないこともありますし、子宮の中で開きにくいことがあります。
頚管の開き具合と、脳内のイメージをもとに、使用する胎盤鉗子の大きさを決めていきましょう。
筋腫を掴んだら強く牽引する
筋腫を掴んだら強く牽引しましょう。こんな感じで体重をかけても良いです。

子宮自体は固定していないので思ったより強く牽引しないとテンションがかかりません。
初めは結構怖いのですが、気持ち強めに引っ張ってみることがコツです。
ただし、二つのことに気をつけなければなりません。一つはそうです、子宮穿孔!!
もう一つは頚管裂傷になります。この胎盤鉗子で筋腫を回収できればそこで手術が完了します。だんだん疲れてきて無理に引っ張りすぎることがあります。
あまりにも強く引っ張ってしまうと頚管裂傷につながることがあるので注意してください。
覗いてよければ1.めくる(剥離)あるいは2.削る(回収)に戻る
引っ張れたなぁと思ったら一度カメラで確認しましょう。
突出が良くなったのを確認できれば、再度剥離あるいは削る作業に戻ります。
最終胎盤鉗子で筋腫が回収できればそこで子宮鏡での核出は終了となります。
先ほどの状態から引っ張ると、このようになりました。

↓

子宮体部に完全突出した状態となっています。
あとは再度削って、胎盤鉗子で回収しやすくします。

再度胎盤鉗子で引っ張って回収できたため終了です!

引っ張るときの注意点とその対策
まず穿孔リスクがあります。胎盤鉗子を入れるので当然起こりますよね。経腹エコーガイド下に行うと良いです。
つぎに繰り返しになりますが、頸管裂傷リスク。胎盤鉗子で捻除ができれば手術は終了となります。なので慣れてくると無理に引っ張り続けてしまうことがあります。滅多にないですが頚管が傷つくこともあるので突出率が高くなればいいなぁ、取れればラッキーぐらいの気持ちで良いのではないでしょうか。慣れるまでは繰り返しカメラで見直しイメージを作り直すと良いですね。
最後に、視野悪化リスク。胎盤鉗子を使うと視野がかなり悪くなります。子宮内の灌流がなくなること、物理的に傷つくことで血餅が子宮内に出てきます。そうすると視野がかなり悪くなります。視野が悪いと穿孔にもつながるので注意してください。奥までシャフトを差し込み灌流液を流し、止血(鈍的剥離後の)、血餅除去をおこない安全を担保してから再開しましょう
まとめ
- TCRの最終目的:子宮穿孔を防ぎつつ安全に核出を完了する。その鍵は筋腫の突出率を高め、深層へ潜り込まないこと。
- 基本手順の再確認:
- めくる(剥離) → 2) 削る(回収) → 3) 引っ張る/収縮させる(テンション) → 必要に応じて①へ戻る(※穿孔させない)。
- STEP3の位置付け:TCRは“手が一本”。剥離中に場を保持できないため、剥離以外のタイミングで強いテンションを一度かけ、次のクールにつなぐ。
- テンションの手段は2系統:
- 胎盤鉗子で牽引:突出率↑ → 鈍的剥離が進み、安全性↑。
- 実際の要点:
- ①引っ張りやすい形に整形(追加剥離・サイドを削る)
- ②なるべく太い胎盤鉗子を選択(細いほど局所圧↑で穿孔リスク↑/ただし太すぎると頸管通過・開大に難あり→頸管の開きと術野イメージでサイズ選択)
- ③強めに牽引(子宮は固定されないため)
- ④カメラで再確認し、突出が良ければ①剥離or②削るに戻る。回収できれば終了。
- 実際の要点:
- 子宮収縮で押し出す:プロスタグランジン1000 µgを頸管局注 → 子宮体部が収縮して筋腫を押し出す。
- 注意:腔が狭くなるため基本は乱用しない。突出が低く牽引困難な時の補助的選択。
- 胎盤鉗子で牽引:突出率↑ → 鈍的剥離が進み、安全性↑。
- 主なリスクと対策:
- 子宮穿孔:細い鉗子は局所圧↑で危険 → 太めの鉗子を選ぶ/経腹エコーガイド併用。
- 頸管裂傷:回収直前は無理牽引しがち → “取れればラッキー”の姿勢で過牽引を避ける。
- 視野悪化(出血・血餅):シャフト深挿入で灌流、止血、血餅除去を徹底してから再開。
練習問題(単一選択)
STEP2(削る)を終えた段階。埋没傾向で突出が低い核。穿孔と頸管裂傷を避けつつ、次のクールに安全につなげる最も妥当なアプローチはどれか。
A.なるべく 細い胎盤鉗子で深部まで差し込み、強牽引して一気に突出させる。
B. 追加剥離で“掴める形”に整形し、頸管の開きに合わせてできるだけ太い胎盤鉗子を選び、経腹エコー下で牽引する。
C. 腔が狭くなるのは承知で、全例でPG 1000 µg頸管局注を先行させる。
D. 突出が低いので、剥離層を犠牲にしてさらに深く削り、筋層内で牽引点を作る。
正解:B
解説
- 目的は突出率↑による穿孔回避。そのためには、まず牽引しやすい形に整形(追加剥離・サイド削り)し、太めの鉗子で局所圧を分散して穿孔リスク↓、さらに経腹エコーガイドで安全性を担保しつつ十分な牽引をかける。そして内視鏡で効果を確認し、①剥離/②削るへ戻してクールを回すのが定石。
- A:細い鉗子は局所圧↑で穿孔リスク↑。画像誘導なしも不利。
- C:PGは補助的選択。全例で先行は腔狭小化→作業性低下のデメリットが上回り得る。
- D:深く削るほど穿孔リスク↑。本質は“深追い”ではなく“突出率を安全に上げる”こと。